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狼と香辛料4
駆け出しを脱した若い商人ロレンスが、普段は人間の若い女のなりをしているが実は数百年生きているという狼の化身ホロを、昔の記録を頼りに彼女の故郷を探して連れて行こうとする旅程を描く、早くも人気シリーズとなった第四弾。今回は、土着神をあがめる村にある不思議な修道院を尋ね、近くの都市の圧力に晒される村を助けようとする話。

二百ページちょっとまで割とのんびり話が進む。この作家は導入部から波乱前までの叙述が豊かで素晴らしい。読んでいて知らないうちにページが進んでいた。長編向きの人なんだなぁと思う。だからその分、波乱と解決がずさんに思えてしまう。仕掛けも面白いし主人公たちの機転だって痛快なのだが、テンポが速すぎてそっけなく思えた。その分説得力も削がれてしまう。頭を使った仕掛けなのだからじっくり見せて欲しかった。

本作の鍵となるゲストキャラは、偉大な司祭に拾われ養われ跡を継いだ少女司祭エルサだ。養父の司祭は変人ながら村の英雄だったが、それゆえに跡を継いだ少女にのしかかる重圧は大きく、健気に村を守っている。体の弱さのわりに毅然とした態度で描写される。もう一人、対照的な女性キャラとして村の女傑イーマが登場する。彼女の若い頃の伝説が嫌味なく面白い。二人とも魅力的なキャラクターだ。ところが私には、二人ともなかなかキャラが立っているのに、どうも今一歩な感じがする。なぜだろう。男が勝手に夢想する「女の強さ」みたいなものが投影されているようで、どうにもムズがゆいのだ。それはホロについても言える。

登場人物のリアリティの薄さが気になる。薄いといっても、何か一つか二つだけ欠けているもどかしさ。これが一体何に起因しているのか。「甘さ」とか「甘え」「都合のよさ」みたいなものではないか。旅人が村人から時に残酷な仕打ちを受ける可能性を想像するなど、シビアな世の中についての記述があるのだが、その分だけ逆に作中のロレンスたちをめぐる実際の動きが生ぬるく思えてしまう。ひょっとしたらそう思うのは私のようなひねくれた人間だけで、多くの人にとってはこのような世界がリアルで魅力的に思えているのだろうか。普段現実で暮らしていて身の回りにあるような、もっと露骨な敵意とか無関心が感じられてもいいと思う。他人とくに異性との会話があまりに合いすぎている。

本作の中で一番重要なのは、街を守りたいと思うエルザの思いと、結果的に故郷を守れなかったホロの思いが、交差するところにあるのだと、少なくとも作者はそう意図しているのだと思う。しかし多分これは誰が読んでも失敗していると思うに違いない。どこか別の作品から引用してきたような、しかも今回はどんな作品からどういうつもりで引用してきたのかよく分からなかった。

本作は前半の語りと教会のパワーバランスと終盤のあっと驚くしかけが楽しめる悪くない話ではあるのだが、私にとってはシリーズが進むにつれて作者の底が見えてきてしまったように思えてならない。
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