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思考の整理学
自力で学問できない「グライダー型」の人間が増えてきたことへの懸念、独自の研究をするためにアイデアを脳内で発酵させる方法、思いついたことをノートなんかで具体的に整理する知恵など、知的な作業についての独自の視点や方法をまとめたエッセイ。

東大・京大で一番読まれた本、という惹句にひかれて読んでみた。

この人の著作を読むのは私は初めてなのだけど、この人は良く言えば独自の考え方を自分で発展させてきた人、悪く言えば自分の専門以外の本はあまり読んでなさそうな人、という感じがした。

本書は六部構成で出来ていて、最初はまず世の学校では自力で研究できる人間を育てられないということを言っている。読んでいて確かにそのとおりだと思った。言われたことだけをやる人間ばかり作られる。これでは新しい文化を創造できない。ただ、あんまり独自だと、これまでの人類の成果を引き継いでから積み上げていくことが出来ない。早くも批判めいたことを言ってしまうのだけど、作者の独特な知性に敬意を持ちつつも疑問が浮かぶ。

二番目に無意識からアイデアを掘り起こすことについて述べている。私が知る限り、立花隆も筒井康隆も同じようなことを言っている。本書は1983年に単行本が出ているので出た当初は新しかったのかもしれない。この人がひょっとしたら一番最初に言い始めたのかもしれない。でも無意識という点については既に精神分析学者の誰かが言っていそうなことだと思う。

セレンディピティという単語を取り上げている。元々違う薬効のために開発されたものが毛生え薬として売り出されるみたいなやつのこと。18世紀のイギリスで流行った「セイロンの三王子」という童話が元になって、文人で政治家のホレス・ウォルポールという人がこの言葉を作ったらしい。英文学者の作者ならではの掘り起こしで興味深く思った。

三番目は思いついたアイデアを整理する具体的な方法について説明している。まずノートに書き留めたあと、さらにそこからメタノートというものに書き写していく過程で、本当に心に引っかかるものを洗練させた状態で残していくような感じ。面倒なのでなかなか自分でやってみようとは思わないのだけど、こういう方法があるんだなあと刺激を受けた。

四番目は前項の裏づけというか解説のような内容になっている。忘れるという作用の重要性、とにかく書いてみること、人間は人から褒められたことだけを重点的に参考にすること、と真実を突いたような鋭い内容が手短に語られている。

五番目は多分、知を巡る人間同士のコミュニケーションに関する内容を集めていると思う。ロータリークラブつまり一業種一人の原則で集まる仲良し集団の知的生産性について述べた文章が強く印象に残った。本書とは全然関係ないけど、医者とか弁護士とか税理士とか建築家など一通りの職業の知り合いがいたほうがいいんだろうなあと思い、交友の狭い自分を省みて残念に思った。

六番目は知についてのいくぶん抽象的な考察を、分かりやすく具体的に行っている文章を集めているっぽい。

割と面白い本だと思うし参考にもなるのだけど、特にそれほど目新しさを感じなかったのは、既に色んな本で似たような内容を私が読んできたからだと思う。そういう意味では、帯にある「もっと若い時に読んでいれば…」という文句も納得できる。もっと早くこの本を読んでこの作者に出会っていれば私はこの人のファンになったかもしれないのだけど、ちょっと遅かったせいかあまり親しみを抱くことが出来なかった。言っていることはいちいちごもっともなのだけど。まあそれでも良書であることは確かだと思う。
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