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うるさい日本の私
日本中の公共スペースにあふれる様々な案内放送や音楽は、実際のところ多くの人にとって意味がないし邪魔なものなのに、良識的なものとして社会に受け入れられているのはおかしい、と哲学者の作者が問題提起しそれらをやめさせるために行動したり考察したりしている本。

一時期話題になった本。この人の別の本の書評を読んで面白そうだったので新刊で買って読んだあと、この人の代表作である本書がブックオフで安く売られていたので買って読んでみた。

この本の魅力は大きく二つある。一つは、普段私たちが色んな場所で自然に耳にしている案内放送のたぐいが、いかに意味がなくてうるさいものなのか、鈍感な私たちに改めて示しているところ。電車に乗っていて「足元にご注意ください」なんて当たり前すぎる。このような一見良識的に思われがちな放送は、人々に対する気遣いから生まれたものなのだろうが、だからこそ誰も文句を言わないし、ないよりはあったほうがいいという考え方に支配される。私だって言われてみればこんな放送が騒音だと思うものの、普段はそれほど気にしていない。ところが作者にとってはこのたぐいの放送がうるさくてしょうがないらしい。イライラして耳をふさぎたくなるほどだというから、さぞかし不愉快なのだろう。

哲学者というのは、人々が普段当たり前に思っているようなことでも、なぜそうなっているのか深く考察するのが仕事だ。だからこういう日本の社会に当たり前のように浸透している騒音について考察するのはごく正しい哲学のありかたであり、それだけなら読んでなるほどと言って終わってしまう。この本の面白いところは、作者が本気で怒っていることだ。もう怨嗟が文章からにじみでてきている。案内放送の内容をそのまま、繰り返すところまでそのまま忠実に書き起こしているところなど、作者の青筋が浮かんでくるほどだ。作者やごく少数の人々しか感じない不快感。駅の構内放送だけでなく商店街や観光地など、あらゆるところにある。これらはあってもなくても大して役に立っていないし、多くの人も多少はうるさく感じており、ごく少数の人にとっては居ても立ってもいられないほどの不快感を起こすにも関わらず、きっと誰かの役に立っているだろうというどこぞの誰かの不確かな良心に支えられて、いつまでたってもなくならない。

で、本書のもう一つの魅力は、そんな作者が実際に行動を起こしてそれらの騒音をやめさせようとするところだ。これが本当に面白い。自分は決して間違ったことをしているわけではないと思っているごく普通の善良な一般人に対して、ごくごくまっとうな正論を言ってやめさせようとする。きっと本書を読んでいない人からすれば、いや本書を読んだ人からしても、実際にこんなおっさんを街中で見たら、頭がおかしいんじゃないかと思うんじゃないだろうか。この作者、結構当たりが強くて、言いたいことをはっきり言って相手に逃げ道を与えないので、言われたほうは仮にもお客様や市民だからといったんは引き下がって言うことを聞いたふりをするのだけど、自分は間違ったことはしていないのにしぶしぶ折れたと思っているからまた元に戻す。そこへ再び日を置いてやってきた作者がまた抗議する。あのとき言うことを聞いてくれたのになぜまた繰り返すのか、その真意を真正面から問いただす。ちょーウケる。あーこりゃソクラテスも殺されるわと思う。

というまさに読者にとって娯楽的に哲学が実践されていて、声をあげて笑いつつも、世の中の仕組みについて考えさせられる。

いくつかの戦いの記録を作者は報告していて、それによると実際のところあんまり戦績は良くないみたいだ。いったんは引く人も、時間がたてば自然と戻ってしまうらしい。ただ、放送の内容や長さが多少短くなるなど、それなりにちゃんと考えてくれる人もいるみたいだ。戦いの中には、私の地元の話もあったので興味深く読んだ。というかこの先生は私の母校の先生で、そういえば時間割で名前を見た覚えがあるのだけど、私のときは一般教養の哲学は教えていなくて確かドイツ語を教えていたので、この先生の授業は受けられなかった。

哲学者というと、週刊文春で連載を持っている土屋賢二やソクラテスのように自分の妻の尻にしかれるひ弱い学者のようなイメージがあるだけに、文字通り戦う哲学者の記録と考察を楽しめる本書はとても面白い知的エンターテイメントだった。
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