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僕と君の大切な話
本が大好きな高校生男子・東司朗が学校帰りに電車を待ちながら駅のホームのベンチに座って本を読んでいると、校内で美人と評判の相沢のぞみが隣に座ってきて、男とはどうしてこうなのかと唐突に語り始める。それを聞いた東司朗は負けじと、女はどうしてああなのかと対抗する。少女マンガ。

新感覚ラブコメというコピーの少女マンガ「となりの怪物くん」で知られる作者ろびこの最新作。今回もなんというか新感覚だった。

男と女の違いについて議論する男女、というのは一見ありそうでまったくないと思うんだけど、こういう作り話の世界で行われるのはとても面白いと思う。ふつう男は女の機嫌を損ねたくないし、女は男の鼻を不用意にへし折りたくないものだから、もし相手がその手の話を持ち掛けてきても、どうでもいい相手なら適当に受け流すし、仲の良い相手ならそれとなくいなすと思う。しかし東司朗は違った。美人相手にもひるまず淡々と言い返す。

そもそも相沢さんが面白すぎる。いままで一度も話したことのない男の子にいきなり駅でこういう話をしだすのだから。会話するのは互いにほぼ初めてという男女が淡々と議論を始めるのがシュールでおかしみがある。これ本当に少女マンガ雑誌に掲載されていたんだろうか。

東司朗はメガネにぴっちりした髪型と一見頭が良さそうな外見をしているけれど実は全然そうではなく、テストでは毎回赤点ギリギリだった。でも本は大好きで実は作家を目指している。そんな彼がなぜ美人に動じなかったのかというと、彼には母親の妹つまり叔母が四人もいて、年が近くてよく家に来てはおもちゃにされていたからだった。有無を言わせない彼女たちに何も言えなかったので言いたかったことが溜まっていたのかも。

一方の相沢のぞみのほうは、天然が入っているけれど学力は学年で三位を取れる頭の良さ。でもどういうわけか東くんに惚れてしまい、ストーカーっぽいことまでやってしまう。クラスでよく女の子たちと話す東くんを見てやきもきする。明るくて美人のストーカーというのがかわいい。非常にありえないとは思うのだけど、一方で作中普通に気味悪がられるから笑える。

読んでいて作者のろびこは男なんじゃないかと思った。自分が男だからかもしれないけれど、男目線のほうが強くて女目線は割と薄い話が多かったと思う。でも女が読んだら逆に感じるのかもしれない。なんにせよ、男と女とはこうまで違うんだというのを割と丁寧に説明しているので、主要な購買層である女性を啓蒙(!)する効果は大きいと思う。いや女は理屈でなく直感で正解に達していることが多いので説明なんて必要ないのかもしれないな。

最初は二人だけの会話だったのが、通称カフェイン君という目が細くて人の好い男の子が恋愛相談を持ち掛けてきたり、その彼にやさしくされたことで好きになってしまう文芸部長で相沢さんの親友でもある通称はまりんが関わってきたり、ハーレムクラスと呼ばれる一組の王子こと環和臣が自分を変えたくて女の子としょっちゅうやりあっている東くんに相談してきたりする。場所も放課後の駅のホームから巻が進むに従って昼休みに校内の庭のベンチになったり、文芸部が活動に使っている部屋の片隅になったりする。

東くんのいる二組は活発な女子のグループに引っ張られる女性上位な組で、男子たちがパシりに使われているのがウケる。その中でも東くんは結構ホネがあるのでしょっちゅうぶつかっている。ナチュラルに女子の好感度を下げる東くんとそれを横で見てドン引きする相沢さんの語りがおもしろかった。この女子たちも元気よくて好きなのでもっと見たかった。

ラブロマンスとしては一話目でいきなり相沢さんが告白するのだけど東くんはそれを真剣に受け取らず、色々あって相沢さんのほうも一歩引いたりもしながらも二人のよくわからない逢瀬(?)は続いていく。そのうち東くんは相沢さんのことを好きだと思うようになり、東くんのほうから踏み出そうとするようになる。東くんはその気持ちを恋愛小説という形で書こうとし、完成させたら自分から告白するんだと決めるがなかなか書きあがらない。

単行本全7巻で完結する。もっと続くものだと思っていた。東くんと相沢さんの関係に決着がついたら作品が終わってしまった。付き合ってからも行き違ってケンカするとことか見たかった。青春群像劇といった感じなのだし、もっといろんな登場人物の話も見てみたかった。

ただ正直言ってそんなにこの作品に引き込まれなかった。読んでいてとてもよく出来た作品だなと思ったし、登場人物もちょっと変わっていて魅力的に感じた。でもどこか物足りなかった。

色々考えてみて思い至ったのは、この作品には敵とか脅威がいないことだった。ドキドキしなかったし、だからなのか展開に引き込まれなかった。相沢さんと東くんが互いに距離を詰められなくて不安に想ったり悩んだりする描写はあるのだけど、相思相愛という安心感となんだかんだで平常運転なせいで感情がそんなに迫ってこなかった。二組で女子同士がケンカする話があるけれどフーンだったし。

敵や脅威がなくても、こうしなきゃいけないのにうまくいかない的なものがあれば話に引き込まれそうなのだけど、東くんが相沢さんとどううまくやりたいのかとか、小説を書きあげたいけどこれこれこういう理由でうまくいかないとか、そういったものがなくてただモヤッとうまくいっていない感じが続いていくので、読んでいてもああいつか解決するといいねぐらいにしか思えなかった。

はまりんが「好き避け(相手のことが好きだけど避けてしまう)」してしまうところは良かったはずなのだけど、なんかいまいち迫ってこなかった。カフェイン君が仏すぎるせいなんじゃないかと思う。鈴の話も切なかったし健気だったけれど、相手が先生だからなのかどうにもならない感が最初からあった。幼馴染のあいつも適当に処理されたし。一組のハーレム王こと環和臣が最後一人で納得して東くんを置き去りにしたのは、読者には彼の気持ちがなんとなく想像できるけれど、その気持ちがどこからきたのかまではよく分からなかった。

この作品にはあんまりドラマチックな展開を求めてはいけないのだと思う。日常系でゆるく濃密な時間が続いてくのをじっくり楽しめばいいんじゃないだろうか。だから、やっぱりもっといろんな登場人物にスポットライトが当たっていって、レギュラーメンバーや他の脇役とどんどん絡んで色んな側面を見せてほしかった。先の例だと、カフェイン君の事情だとか、幼馴染のあいつの気持ちとか、環和臣の気持ちやその後についても広がっていってくれればもっと楽しめたと思う。まあ作者は話を畳みたかったんだろうなあ。

自分の中学からの友人で東くんみたいな人がいた。メガネかけた一見真面目そうで成績は国語だけすごく出来たけど他は悪く、授業一コマで文庫本一冊読むぐらい本が好きだった。クラスのムードメーカーで女子とも仲がいいというかよく楽しげにケンカをしていた。彼には年の離れた姉が二人いていじられていたみたいで、ちょっと違うけれど結構共通点があったと思う。彼がその後どうなったのかというと、姉離れをしたのだと思う。自分がいじられる側だったのが逆に女の子をいじる側にまわろうとしていた。

まあ人それぞれなんだろうけど、子供が親を乗り越えようとする時期が来るように、強力な叔母というか上位の女の存在を乗り越えようとする展開があったら良かったんじゃないかと思った。そう考えるとやっぱり東くんが女子に対して無頓着に冷たいことを言えるのはなんだか違和感がある。相沢さんに対して言い返しつつも、これだけ言ったらすごいやり返されるんじゃないかとビクビクしながら反応をうかがってみるうちに、なにやら向こうも警戒していることに気づいていき、ちゃんと一人の女の子とうまいこと付き合っていく方法を見つけていくような流れになっていたら良かったと思う。東くんは強気な女性に対しては自分を確立しちゃったんだろうな。

とまあ前作「となりの怪物くん」みたいなコメディだけどシリアスをまぶしたような、ちょっとずつ傷を負った面々の楽しくもせつない話を期待するとちょっと肩透かしかもしれないけれど、濃密だけどカジュアルで軽妙な掛け合いが楽しめるので勧める。
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