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「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった 〜誤解と誤訳の近現代史
あの有名な言葉が実は元の意味とは取り違えられて広まっている。そんな例をいくつか集めて著者が元の資料をたどったり関係者にインタビューをして調査したことをまとめた本。

なんというか、最近の特に新書は題名で売ろうとしているなぁ。そんな本をついつい買って後悔することが多くなってきたので、最近私は文庫に移ることにしたのだが、この作品はそれなりに面白かった。

まず表題にあるエコノミック・アニマル。これは誤訳ではないが明らかに誤解だ。チャーチルはポリティカル・アニマルと呼ばれたそうだが、これは悪口ではないそうだ。それにネガティブなイメージならアニマルではなくビーストなのだそうだ。さらには資料だけでなく、発言主であるパキスタンの元外相プットから弁明を聞いた日本の外交官から話を聞いている。間接的にせよ、言った本人が誤解だと言っているのだから誤解なのだろう。

一方でウサギ小屋のほうはちょっと苦しい。原語がフランス語で、英語になったときに劣悪なイメージがついたと言っている。こういう分析は面白くはあるが、文脈的に見てもネガティブに言われているのは分かる。中立を装っていることには成功しているとしても。

暗号解読時の翻訳に露骨な悪意があったことを実例を挙げて説明している章には本当にびっくりした。この章がこの本で一番の内容だと私は思う。日本が戦争を回避しようと投げていた通信が、妥協点なしかのような内容でアメリカに解釈されていたのだ。

漱石がロンドンで受けていたひどい扱いとか、逆に魯迅が日本で出会った奇人の先生の話が語られる章がある。誤訳とはほとんど関係ないのだが、異なる言語と文化が出会うということがどういうことかを語る上でも、また読み物としても興味深い。二つとも割と有名な話みたいなので既に知っている人も少なくないだろうが、そういう人でも作者自身の留学体験は楽しめるだろう。

ほかには、マッカーサーの「日本人は12歳」発言、グローバルスタンダードという造語、古いヨーロッパの古い(ancientではなくold)、ダイアナの自称で使った三人称を王族に対する憧憬から女王風だと勘違いしたアメリカのマスコミ、シンガポールでの山下将軍とパーシバル将軍との通訳でのトラブルとテーマは幅広い。

そんな比較的英語経験豊富な作者や周りの外交官が、moronという単語を知らなかったというのは驚いた。ブッシュ・ジュニアを形容するうすのろという意味の言葉だ。私も当時知らなかったが、ネット上で結構氾濫していて意味を調べたことがあった。英語堪能な外交官が顔をつき合わせて戸惑っているさまを想像して面白かった。

英語には難しい単語がいっぱいあって、日本語もまあそうなのだけど、当時マレーシア首相だったマハティールはそんな単語でもすぐに分かって相手に応酬していたと言っている。

誤訳と誤解にまつわる読み物と考えて読んだほうがいいだろう。楽しい読み物を読みたいと考えているなら読んで損はないと思う。でも、敢えて人に勧めるほどの本ではないかな。
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