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行き詰まる覇権のババ抜き
アメリカを超大国たらしめている軍事力による覇権が、もはやババ抜きのババのように邪魔なものになったという主張をした記事。

アメリカ・ルイジアナ州立大学のソブハッシュ・カク教授という科学史の専門家が書いた「帝国は要りません」と題するアジアタイムスに寄稿された分析記事に、作者は興味を引かれて思索を進めている。

といっても作者は既に「非米同盟」(文春新書)のエピローグで覇権が不要になったとの論を述べており、作者の継続的な調査・分析の順調な延長となっている。

カク教授の論文は、かつては鉄道や油田などのインフラや資源を維持するために領土や軍事力が必要だったが、それらが資本主義の原理で誰でも利用できるものとなった今、テロその他の暴力から守る役目はボランティアに過ぎなくなったというものらしい。

イギリスによる帝国主義が直接支配から間接支配に切り替わったことから遡って論を進めている。そうなると通常の軍事力の代わりに諜報が重要となってくるので、その過程でCIAの源流とされる軍事諜報部MIが生まれたのだそうだ。イギリスはさらに「国際社会」「国連」をでっちあげ、帝国運営の経費を節約したと主張している。ドンパチやったり裏でスパイ同士が戦うより、国際会議で自国有利の状況を作って話し合いだけで支配維持が出来るのだから安いものだ。

イギリスが経費を節減する一方で、イギリスの地位を受け継いだアメリカは、膨大な軍事費を使って比類ない軍隊を作り上げて維持しつづけることとなった。そしてその軍事力を使って経済活動の支援をしようとしたが、大きいところでは冷戦でソビエトを中心とした東側各国と戦って疲弊し、小さいところでは中南米などで大掛かりなことをやる割には実入りが少ないということを続けてきた。そして最近になってようやく自分たちがババを引いていたことを悟った。

軍事力を効率的に維持運用するために、アメリカは軍事革命を行って色々がんばっているが、イラクを見て分かるように確かに軍事効率ではダントツ一位かもしれないが、数的不利とコスパの壁を越えるには至っていない。既に軍事力は経済的利益と直接は結びつかないやっかいなものとなっていた。

911以降、アメリカは意図的に失敗し、覇権を他国に譲ろうとしている、ということを作者は「非米同盟」や自分のサイトの記事群で主張しつづけている。

中国は中国で覇権を追求しているように見えるが、作者に言わせればアメリカが挑発してそうさせているらしい。

覇権はババから再び価値あるカードへと変わる可能性もあることを一応最後に指摘しているが、作者はただ行方を見守るという程度にとどめている。

アメリカが近年とってきた戦略を四つにまとめているが、いずれも失敗しているという。

1. 覇権分散
EUはEU憲法が否決され民衆が覇権を拒否した。日本は30年も前に拒否。中国は工作中。ロシアとインドに期待。

2. テロ戦争主導
イラク侵攻で停滞。

3. 軍事費削減
軍事革命もミサイル防衛もいまいち。

4. 国際機関に覇権譲渡
国連が反米になることが現実に起こっているので中止。

最後に日本と小泉靖国参拝について書いて終わっているが、ちょっとこれはうがちすぎだと思う。このままでは中国が日本と仲良くやることにより覇権に近付いていくので、わざと靖国に参拝することで中国を挑発していると言っているが、随分とまわりくどい話だし他にもっと考えられる理由があると思う。

私の認識不足なのかもしれないが、覇権は現実に未だ有効な場面が多いように思う。尖閣諸島問題での日中の駆け引きは、軍事力なしに考えられない。いかに資本主義的になったとはいえ、中国の覇権範囲内のインフラはともかく資源は手を出すのが難しいように思う。軍事力に支えられた政治的影響力が、弱小国家に対する経済的支配の元ともなっている。中国に至ってはチベット占領維持に役立てている。アラブの石油利権が近い将来覇権の影響力を脱するとも思えない。

ともかくこの記事は、これからの世界を見ていくのに便利なものの見方を提供してくれている。とても画期的で分かりやすく素晴らしい文章だと思う。ひさびさに知り合いに強く勧めたい文章に出会った。
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