学校を出よう! Escape from The School |
子供限定で様々な謎の超能力が身につく架空の世界で、小さいころ双子の妹たちの片割れに死に別れた主人公の男子高校生は、死んだはずの妹に幽霊のように付きまとわれ、その妹が特別な力を発揮することから妹たちともども超能力者を囲う全寮制の学園で生活していた。学園のふざけた超常性にうんざりしていた主人公は学園からの脱出を願うが、学園外でも不思議な事件が発生するとのことでなぜか生徒会長から調査を頼まれる。
という本作は、2006年にアニメ化でブレイクした「涼宮ハルヒの憂鬱」の原作小説の作者・谷川流が同作と同時にデビュー作として出されたサイキックアクションラブコメ小説である(と私がいま勝手に呼んだ)。
巻頭のマンガ絵や序盤のテンションの高い会話に正直これはハズレかと思い期待せずに読み進んでいったが、まずキャラの魅力に引っ張られ、次にストーリーに引っ張られ、気が付くと作品に引き込まれていた。
まず二人の女子学生がとても魅力的だ。かなりズレた感覚のお嬢様系キャラ・光明寺茉衣子は、全身真っ黒の普段着ドレスで、方向違いの豊富な語彙で上品だか偏執なのか分からない言い回しでまくし立てる。中盤、幽霊のほうの妹・春菜にやりこまれ痛めつけられいじけるところが特に素晴らしい。
もう一人がテレパス(人の心を読む力)を持つがゆえに(?)スレた考え方で主人公や特にブラコンの妹・春菜をからかう生徒会役員・綾瀬真琴。ざっくばらんな喋り方の筆致が生き生きしている。ちょっとデレの要素があるところがとても良い。
ストーリーはネタバレになるから説明しづらいが、はっきりいってしまうと本作では真実が明かされない。主人公の一人称で語られる作品なので、主人公の認知の範囲内でしか説明されない。そこが逆に魅力ともなっている。
まず、幽霊のようなものとして現実に出現している春奈とは一体なんなのか。次に、学園外で起きている謎の事件とはなんなのか。これらは関連するのかしないのか。PSYネットワークとは。主人公が心の中で思い、登場人物たちがそれぞれに好き勝手なことを語る。
仮に誰か一人が黒幕だったとしたら、それぞれ別の物語が成立する。生徒会長だったら。真琴だったら。優弥だったら。春奈だったら。若菜だったら。主人公だったら。目は薄いが宮野だったらとか茉衣子だったらという解釈も出来るようにしてある。しかもそれが比較的分かりやすい形で書かれている。これはとてもすごいことだ。
と作品を持ち上げておいて今度は批評めいたことを書く。
本作は正しくライトノベルなので、ベタすぎてオタくさい学園モノが嫌いな人には受け付けられないだろう。それは仕方ない。じゃないと茉衣子や真琴のようなキャラが楽しめない。そういう人は読まなくていい。
台詞まわしや展開や表現が雑なところが多少目立つ。これは作者のデビュー作だということを考えれば当然で、むしろ勢いを評価すべきところなのだが、同じ作者のデビュー作の片割れが文章的にも極めて高い完成度を持っていることを考えると不可解に感じる。
そして本作最大の欠点は難解さだ。SF的・哲学的な思索もそうだが、結局本当のところはどうだったのか、ストーリー的な明快さがまったくない。結局どうなったんだと文句を言う人が多いのではないかと思ってしまう。これは「分からない」が正解と言えば正解で、本作の「分からない」はエヴァンゲリオンの「分からない」なんかと比べるとずっと高級なものだ。それで納得できるかどうかで読者を選んでしまう。
ちなみに私としては真琴犯人説を推したい。それが私としては一番魅力的だからだ。
そうそう。本作の一番の問題点は題名にあるかもしれない。作者自ら言うようにこの作者の題のつけ方は悪すぎる。この題と巻頭のアニメタッチのマンガがなければ、本作のような作品を求める人の手にもっと本作が渡ったのではないかと思う。
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