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さすらいの女王
元ライトノベル作家の中村うさぎが、ブランド狂いの日々を回想・現在進行形で語るところから始まり、自分の中の女や人間性について内省的にあけすけに誠実に打ち明けたり、体当たりの体験レポートや間違った貧乏生活を綴った週刊誌連載エッセイ。

私の大好きな週刊文春で毎週空気のように楽しんでいる連載の一つだが、ふと考えるとこの連載はとても素晴らしいかけがえのない書き物だと思ったので紹介することにした。中村うさぎは私が最も尊敬する女性作家であると言って良いように思う(一瞬迷ったけど)。

一番過激なのは、美容整形を繰り返してまで若さを追い求め、ついには中年ながらヘルス嬢までやってしまったことだ。これには半ばタイアップ気味にやっていた美容整形会社も引いて距離を取ったという。そして何より貴重なのが、そんな自分を冷静に正直に見つめて言葉で綴っていることだ。この手の告白は空っぽで俗っぽく作り物になりがちなのだが、この人は自分のことを冷静に見つめている。冷静に自分に突っ込む自分の姿も意識している。

今週号の文章をちょっとだけ引用する。

*

ええ、それは高望みですとも。だって、自分自身が、男のすべてを愛することなんてできないもの。自分にできないことを他人に求めるのは、高望み以外の何物でもなかろう。わかってるわ。わかってるけど女は、自分を丸ごと愛して欲しがる生き物なのよ。何故なら、愛されないと価値がない、と思い込んでるから。

*

ちょっと引用するところを間違えただろうか。

この人は愛を持ち上げているのではなく、自分の感情や欲望がある面では実にしょうもないということを十分に理解しているけど、だからといってそれをバッサリ切り捨てることなく正面から向かい合っていて、冷静に観察し制御しようとしている。そしてそれがあまりうまくいかないことも告白している。

笑いがあるのもいい。ここ最近なにかの企画でSMバーで時々働いているそうなのだが、それっぽい革の衣装を持っていないので家から下着っぽいものを持ってきて一人ランパブ状態で顰蹙をかっていると言っていて笑った。

正直貧乏話はあまり面白くない。区役所から財産を差し押さえられたとか色々とんでもない話が語られるのだが、読んでいてやっぱりそれは自業自得って思ってしまう。私にはブランド狂いで貧乏なのに高い家賃のマンションに住み続けるということに共感が出来ないからだろう。

子供や少女の頃の回想なんかがもっとあるといいなあと思うのだが、期待してはいけないのだろうか。

いまふと気になったのだが、私(や週刊文春の読者層であるおじさんたち)が中村うさぎの文章を好きなのは、ひょっとしたら女であることに固執して男にもてたいと願う彼女のある種の媚にたらしこまれているだけなのかもしれない。それは例えば女性がオカマを見て女にあこがれている彼らを見下ろす視点に近いような気もする。

実物見たらほんと引くんだろうけど(なにせ中年のおばさんだ)、少なくとも文章で読むと引き込まれる。それと通算435回も続く長期連載ではあるが、そんなに毎回引き込まれるわけじゃなくて、多くの回は切り口や語り口に感心するぐらいである。その中に時々びっくりするほど(読者の私たちが期待していなかったところで)深く突っ込んでくるので油断ならない。

ついでに言うと最近は劇団ひとりの連載の方も素晴らしい回がいくつかあって、微妙に私と波長があわないところはあるものの、正直にあけすけになんでも書いてしまうところは中村うさぎと同様ちょっと感動してしまう。いずれこちらのほうも紹介する。
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