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男たちの大和/YAMATO
先の大戦で日本海軍の象徴的存在だった巨大戦艦大和の、終戦間際の乏しい戦力の中で行われた戦略的・戦術的に無意味と言われた二回の出撃での、甲板の砲撃手などの末端の兵士や下士官たちの散り際を描いた映画。

この作品が何を描きたかったのか私にはとてもよく分かる。分かるからこそ、観ていてせつなくなる。私の憶測込みで言わせてもらうと、製作者とくに角川春樹は男の格好よさを表現したかったのだと思う。

国を守るために戦い、無残に死んでいった人たち。大義に殉じたとか、愛する者のためにとか、公私に感動的な要素が沢山あるが、そういう要素に裏付けられた上で、なによりも彼らは格好いいのだ。

角川春樹は最新作の「蒼き…」で撮影現場に軍服で現れるなどイタイおじさんぶりを週刊文春で報じられていた。私はこの人の気持ちがある程度は分かる。軍服って格好いい。

この人が間違えちゃったのは、普通の人は大義とか愛の部分に目が行くのに、この人の場合はそれらのよりしろに過ぎない軍隊とか特攻のほうに向いちゃったことだ。ちょっと用語がおかしいかもしれないが、これはある種のフェティシズムだと思う。

普通の人が女性の体に欲情するところを、フェチは下着などの付随物に欲情する。それと同じで、この作品のあらゆる要素は下着のための演出であり、大義とか愛なんてものは下着を美しく見せるための二次的なものなのだ。

だからこの作品のエピソードはどれも中途半端で見苦しい。どれも意味的には通っているのだが全然伝わってこない。どのエピソードも男たちの魅力を引き立てることを第一に作られている。そういう意味ではこの作品につけられた「男たちの大和」という題はこの作品の本質を見事に表していてちょっと感心した。

そりゃ素っ裸よりも下着のほうが欲情する人が多いだろうから芸術の方向性として間違っていないと思うのだが、男の格好良さは大義とか愛に裏付けられているものなのだから、そっちのほうをもっとしっかりやらないとシラケてしまう。ストレートに言うと、表現者としての力が無いのだろう。

私にとって収穫だったのは、戦艦での戦闘の血みどろさがどういうものかがすごくよく分かったことだった。司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んでいるとたびたび血の描写があったので私は頭に描いてみたりはしていたのだが、やはり痛々しいものを感じた。ちょっと残酷すぎるようにも思った。

長渕剛の主題歌、これだけ映画全体が日本色なのに、サビで close your eyes はナシだろう。この人は本当にあたまわるいと思った。そういえば題にも YAMATO って入ってるし。この人たちは格好いいものが好きなだけ、と切り捨てるのが一番妥当だと思う。
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