敵は海賊・不敵な休暇 |
広域宇宙警察対海賊課のチーフ・バスターが自伝を書くと言って長期休暇を取り、ラテルとアプロとラジェンドラはチーフ代理をやらされることになった。伝説の海賊ヨウメイを自分の手で仕留めたいと願うラテルだったが、ヨウメイに張り込んでいる特殊捜査官アセルテジオ・モンタークがヨウメイを一人でやると言って連絡を絶った。他人の物語に周囲の人間を無理やり従わせることができるという奇妙な特殊能力を持ったこの特殊捜査官に敵も味方も翻弄される。人気SF小説シリーズ第四弾。
この作品の筋は、特殊捜査官と海賊ヨウメイの戦いである。常識を超えた強力無比な存在である海賊ヨウメイにこの特殊捜査官はどうやって戦いを挑むのか。異能力者同士の知略をめぐらせる戦いは、実のところそんなに面白くなかった。普通に考えれば無敵とさえ言える特殊捜査官の能力に対して、これまた反則的と言える海賊ヨウメイの力がぶつかるところは、まったくスリルを感じないし彼ら自身による状況の解説は白々しくもあった。
だがこの作品のすばらしいところは、海賊ヨウメイが火星の無法都市サベイジや表の世界での顔ヨームについて思索にふけるところだろう。電子マネー化した宇宙の中で、サベイジだけはリアルと呼ばれる紙幣しか流通していない。この設定が現実的かと言われると微妙なのだが、こうして一つの現実とは異なる現実が存在する場所を描くことで、現実の不確かさ、いわゆる共同幻想を独特の語り口で語っている。
ある一人の人間の思い描く世界や物語を不特定多数の人間に強制させる能力を持った特殊捜査官を配することで、人々が自分たちの物語と世界の中で生きているのだということを筋の中で巧妙に読者に伝えている。交錯するそれぞれの現実と相互干渉。まったく意に介さないアプロのような別の現実に生きる存在。
ボケたり突っ込んだりする高度な電子頭脳を持つラジェンドラがどうやって生まれたのかという説明も面白い。コンピュータを人間の手で教育するのだという。教育に失敗すると分裂症のようになり野生化して人間を見下して暴走するコンピュータに育つという。これはあくまでコンピュータの例として語られているが、人間にも当てはまるということが読んでいてはっきりと分かる。
非常に哲学的で考えさせられる作品だ。相変わらずテンポのいいギャグも魅力的。
これでこの作品自体の物語がもっと面白ければなあ。読んでいてダレる。あとチーフ・バスターの家族の描写は結構がんばっていると思うのだが、そこはあんまり力を入れるところじゃないと思うし、普通の小説よりもどうしても弱く感じてしまう。
SFをあまり読まない人には難しいかもしれないが、SFを読めるという人にはぜひ読んでもらいたい作品。
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