オナニーマスター黒沢 マンガ版 |
クラスで孤立している根暗な中三少年・黒沢は、放課後学校から人がまばらになった頃に教室から離れた校舎の女子トイレの中でオナニーをするのを日課としていた。しかしそのことがクラスの女子のいじめられっ子・北原にバレてしまい、不本意ながら北原の復讐の数々に手を貸すことになる。孤独だが孤高を気取る少年の鬱屈した学校生活と成長を描いたちょっとエッチな青春もの。
この題はないよなあ。紹介するのもはばかられる。しかし紹介せずにはいられないとても魅力的な作品だ。
まず黒沢の日課となっているオナニーの描写から入る。手を伸ばしても届かないクラスのかわいい女子たちを妄想の中で犯す。そんなつまらない存在の自分なのに、いつもしつこく声を掛けてきて仕方なく一緒に行動しているオタクのリーダー・長岡のことは見下している。
一方小柄で陰気なメガネ少女北原は、クラスのヤンキー二人組を中心としたグループから陰湿なイジメを受けていた。クラスメイトたちはそのことに気づいてはいたがみんなそれを楽しんでいた。北原は黒沢の奇癖に偶然気づき、黒沢を脅して自らの復讐の代行を依頼する。黒沢は不本意ではあったが共感したのか結局彼女に協力する。その方法とは、精液を対象者の身の回りの物に付着させるというものだった。
とまあここまではつかみの部分だと思う。オナニーといじめ描写で読者を引き込み、復讐という胸のすく展開で読ませようというのだろう。かつてのネット小説の傑作「絶望の世界」を思わせる。私は引き込まれた。といっても長岡の描写があまりにベタで痛すぎて読むのをやめようと思ったことも付け加えておく。
そこから急に話は青春ものになる。日課の前に校舎から人がいなくなるまで図書室で待つ主人公のもとに、クラスの三大美女の一人滝川がやってきて話しかけてくる。読書という共通の趣味を持つ二人は仲良くなる。といかにも都合のいい展開だ。だがそれには理由があって…。
これ以上書くとネタバレになるので話の筋の説明はここまでにしておく。
この話のテーマは、妄想ばかりして都合のいい空想をして楽しんで現実をあきらめるなんてよくない、ちゃんと現実に働きかければうまくいくことだってあるんだよということだろう。耳の痛い話である。
淡い恋愛描写がいい。内容的にはかなりベタだとは思うのだが、それをここまで自然に描いていることが素晴らしい。主人公の鬱屈さ加減に波長が合う。読んでそう思う人はネット上なら結構いると思う。
絵はどちらかというとうまいと思う。雑ではあるけれど。男はかなり個性的な描き分けがされていて、こんなタイプの人いたなあと思わされる。女はあんまり現実感のある造形のキャラはいないけど、どのキャラもそこそこ魅力的に描かれている。表情のつけかたがうまいことでカバーしているのか。
ネット作品だからという偏見もあると思うが、才能という点で言えば多少見劣りするかもしれない。結構パターン化された部品をある程度かき集めてきたと思う。しかしそれを直球で放るところと、青臭い主張を堂々と語ってみせるところはすごいなあと思う。細かい違和感が気にならない。
2ちゃんねるの評判だと、後半がダメという人が結構いた。読んでみてなるほど理由はよく分かった。主人公の黒沢が心変わりするところがダメなんだろうなあ。中盤のある事件によって黒沢は、自らの妄想に引きこもったり現実を取り繕うことができない状態に追い込まれた。その状況を打破するために彼はああいう選択をしたんだろうなあと私は思う。しかしここで読者の一部(ひょっとしたら大部分)は急に黒沢への感情移入が解かれてしまったのだろう。
なんかベタなところに着地しているなあと思ったりもするが、じゃあ私たちは本当はどうしたいのかと言われると私には答えが見つからない。この点をもっと突き詰めてねちっこく描けば、もっと良い作品になったのではないだろうか。作品的にはスッキリしなくなるだろうけど。
細かいことを言うと、小林がいいやつならなぜ北原いじめを止めなかったのかというツッコミもしたくなる。ほかにもあんまり細かいところは気にしないで読んだほうがいいだろう。
題からも分かるようにちょっと下品な性描写があるので嫌いな人は嫌いだと思う。この題は人を引きつけもするし遠ざけもするだろう。
この作品はネット上で無料公開されているが、作画の人はプロ化するらしく、2009年4月までの期限つきの公開となっている。読むなら早いうちに読んだほうがいい。原作者のほうはよく知らない。原作ありきの作品だと思うので、いずれ原作や他の作品も読んでみたいと思う。
読んでいてひさびさにドキドキした。期待を抱かせる展開と、かなり望みどおりの恋愛描写。zipをダウンロードできるようになっているが、もし製本版も出たら1,200円ぐらいまでなら買って本棚に入れておきたいなと思った。
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