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ブラックジャックによろしく
研修医を主人公にした、日本の歪んだ医学界の実体を描いたマンガ。大学病院と医局に支配された日本の病院と医師、ないがしろにされる患者。

内容はとても興味深い。研修医が薄給で、むちゃなバイトで睡眠時間を削らなければ生活できない。救急指定の病院で突然患者が運び込まれ、一人で対処しなければならずうろたえる主人公。普段はうなぎを切っているだけの教授が手術の執刀をするときは最初の切開だけをやり、そうして数十年手術に失敗なしの神の手を持った先生と呼ばれ、患者から規定外の報酬を受けとる。内科と心臓外科との最悪な連携、医局からはぐれた一匹狼の心臓外科医、絶対的に経験の足りない大学病院の医師たち。

現役の医師たちも口々に賛同する内容。これは事実とは違うとの声はいまのところ聞かない。私のネット上の知り合いでいま研修医をやっている人がいるのだが、朝6時に出勤して夜12時に帰る生活にネットにつなぐ時間もないと言っていた。コネみたいなのもあるようで、よくないしくみだとは思いながらも、あるものは最大限利用してまずは修行するつもりだそうだ。

しかし本書を褒めるのはここまでだ。物語の語り方は最低クラス。なにかというと涙を使う。この安易なやりかたが登場人物を薄っぺらくしている。来る者拒まずの救急指定病院の院長は人物造型がよくできていたのだが、描き方が悪いのでいまいち乗っていけない。一匹狼心臓外科医の北先生もその患者も、最初のインパクトはよかったが、人情噺を広げすぎて安っぽくなっている。北先生のエピソードの最後に出てくる、主人公と患者と北先生の笑っている静止画は、やりたいことは分かるがまったくうまくいっていない。

マンガを描く技法も未熟だ。2ページ見開きで都会の夜景をバックに、大きな白抜きの活字が朗々と日本医学界の現実を告発しているつもりなのだろうが、流れから浮いている。

絵は悪くない。まず表紙の主人公の絵が秀逸。すがすがしい。看護婦さんもかわいい。ここまでに述べてきた登場人物のほかに、心臓外科医の面々とくにテカテカの教授だとか、事故で運ばれてくる患者の描写。主人公の熱血さかげんも伝わってくる。

私は、この作品を読まなくても、活字のノンフィクション本を読めばいいと基本的には思う。しかし、この作品でなければならない部分もある。それは、医者の態度だ。誇張されているのではないかと思わないこともないが、大体現実的な光景なのではないだろうか。患者をめぐる内科医と心臓外科医との会議なんかは特に良かった。

最後に題名に触れるが、この題名は卑怯だとは思うが、非常にセンスがいい。手塚治虫の名作「ブラックジャック」を知らなければ多分なんにも分からないんだろうなとは思うが、知っていれば思わず手を取りたくなる。名作引用効果か。
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