ペルソナ3フェス (Playstation2 the Best版) |
大財閥の城下町として栄えるとある都市の一帯では、突然無気力になってしまう謎の奇病が不気味な流行を見せていた。主人公の高校生の青年は、両親を亡くしているため一人学生寮に入る。その寮は、午前0時の狭間に存在する「影時間」と呼ばれる異次元空間に跋扈するシャドウと呼ばれる敵と戦うための、異能力を持った学生集団の根拠地だった。世界中の神々や怪物や精霊などを悪魔として取り扱って独特の世界観を持つアトラスの人気RPG女神転生シリーズの傍流、ペルソナシリーズの第三作とその追加コンテンツが一体となった廉価パッケージ。
なにか面白いRPGを遊びたくなってネットで調べたら、学園ものの洒落た傑作として本作品を挙げている人が何人もいたので、廉価版が出たのを機に手を出してみた。プレイステーション3が出た時期に、各社がこの新しいハードでの開発に軸を移そうというときに、アトラスはあえてプレイステーション2に踏みとどまって、最新技術よりも内容の充実を優先して開発されたと言われているらしい。
モロに学園もの。カレンダーに従って平日は特別なことがない限り毎日学校に行って授業を受ける。このゲームはRPGなのだけど、朝起きたら登校シーンがあり、時々授業シーンがあり、この間は自動で進む。放課後からフィールド画面になって自由に移動できるようになる。フィールドはごく狭く、校内と町内六箇所程度しかない。町内はショッピングモールや神社や駅前商店街などに分かれているが、それぞれ数画面程度しかなくて見通しが良い。広いマップを歩かなきゃRPGじゃない!と思う人もいるかもしれないけれど、この割り切りは新鮮でとても好ましかった。
でそのフィールド画面で何をするのかというと、なんとこれが主に人脈を作ることなのだ。コミュニティと言って二十人ぐらいの人がいて、それぞれ十段階の友好度みたいなものを持っている。話しかけて一緒に過ごすことで仲が良くなっていく。それぞれの人はそれぞれの問題を抱えていて、主人公と仲が良くなっていくにつれて話が進んでいく。先生に惚れた男子生徒、怪我に悩む運動部の男子生徒、進路に悩む文化部の男子生徒、学校の木が切られることを気にする商店街の老夫婦、両親が離婚しそうな女の子など。女子生徒とは仲がよくなると恋仲になる。仲が良くなると、主人公が戦闘で力を借りることになる「ペルソナ」(元々のシリーズでは「仲魔」と呼ばれていた)がパワーアップする。「ペルソナ」にはタロットをモチーフにした系統があって、それぞれの人が「ペルソナ」のそれぞれの系統に対応しているので、仲がよくなった人に対応する系統の「ペルソナ」がどんどん強くなっていく。仲が最高の状態になると、その系統の高位の「ペルソナ」が新たに召喚できるようになる。
戦闘は影時間にのみ存在するタルタロスと呼ばれる巨大な塔で繰り広げられる。なんとダンジョンはここ一箇所だけ(定期イベントを除く)。ランダムに生成される3Dの迷路に、敵や宝箱が配置され、上へ上る階段を探して塔を少しずつ登っていく。敵を倒して経験値をためて主人公や仲間たちのレベルを上げていき、お金をためたり宝箱から入手したりして装備やアイテムを充実させていく。戦闘は敵シンボルによるエンカウント方式で、つまりマップ上にうごめく敵マークとの接触により戦闘に入る。
敵の弱点を突くときわめて有利に戦闘を進めることが出来ることから、それぞれ特徴を持った「ペルソナ」をまんべんなく揃えておくことに腐心するようになる。攻撃方法は大きく物理攻撃と魔法攻撃があって、物理攻撃には斬撃と打撃と貫通の三種類、魔法攻撃には炎と氷と風と雷の四種類、さらに光と闇という即死系の魔法の属性がある。「ペルソナ」は元シリーズの「仲魔」のような遭遇した敵との交渉で手に入れるのではなく、戦闘後に時々出るタロットから拾う。拾った「ペルソナ」をそのまま育ててもいいし、合体させて別の「ペルソナ」にすることもできる。本シリーズの特徴である悪魔合体が本作品にも完全な形で用意されている。ただし「ペルソナ」はあくまで主人公の内側に存在するだけで、実際に表に出て戦ってくれるわけではないので、あくまで攻撃技や防御属性が使えるだけになっている。「ペルソナ」は切り替え式に同時に一体しかつけられない上に、耐久力のある「ペルソナ」をつけても主人公のHP(生命力)が増えるわけでもない。
もうこれで大体基本的なゲームシステムは説明できたのでそろそろ批評に入る。
これでもかという感じに学園もの。RPGでこれだけ学園ものの要素が入った作品を私は見たことがなかった。女神転生シリーズには真・女神転生ifという学園ものの作品があるものの、学園を舞台にしながら学園生活から逸脱していて、それはそれで奇抜で突き抜けていて面白かったのだけど、このペルソナ3は本当にごくまっとうな学園生活が扱われている。なにせ定期テストまであるぐらいだ。もちろん修学旅行や合宿なんていう特別なイベントは用意されているけれど、普段は学校と寮を往復する毎日で、そのあいだに色んな人と会って仲を深めていく。この日常にどっぷり浸れるところが良かった。
自分が気に入った相手を中心に攻めるのも自由だ。運動部の男子生徒は放置して女子マネージャだけ攻めるのもできる。女の子は何人かいて、生徒会役員のおとなしい女の子、クラスのかわいい子など、好みの相手だけ狙える。ただし複数の相手を同時に攻めると、相手をしなかった相手の友好度が落ちてしまう。一度友好度を最大にするともう落ちなくなるので次の相手を攻めることが出来るようになる。
私はお嬢様キャラの美鶴が一番気に入った。彼女は「シャドウ」を討伐するための学生集団のリーダー格で、戦闘のときにパーティメンバーに選ぶこともでき、探索中にちょっと派手な女物の装備を手に入れて彼女に装備させようとすると、驚き戸惑いながらも男気のある様子で「着てみせようじゃないか!」などと言うところがとても萌えた。彼女に限らず女の子はみんな個性的で魅力があって良かった。
女の子に限らず、一定期間放置していると仲が険悪になることがある。このあたりの仕組みがまるでエロゲーのようだとネットでは言われており、まさにそのとおりだと思った。選択肢とか出てくるし。どの選択肢を選ぶかによって友好度の上がり方が違う。相手によって相手の望む答えを選ばないといけないところなんて、本シリーズのタイトルとなっている「ペルソナ(仮面をかぶった人格)」そのものだ。まるで正解を探るようなところがむなしいのだけど、攻略を優先せずに、自分ならこう言う、というのを貫いて遊ぶことも出来る。仲が悪くなってもそのままにしたっていい。
仲を進展させることの出来るコミュニティのキャラクターのイベントの中で私が一番気に入ったのは「隠者」で、休日の朝に起きて机に向かうと選べる「ネットゲームで遊ぶ」という選択肢で仲良くなれる、なんとネット上だけでしか接点のないY子。「キャハキャハ(^ヮ^)」と顔文字をまじえて職場の愚痴なんかを漏らしてくるメンヘラ気味の女(メンヘラとはメンタルヘルスの略で精神的にちょっとおかしい人のこと)。友好度を最大にしてから最終ボスを倒した後で各コミュニティの後日談が聞ける場面があり、その中でこのY子の正体が分かってとてもウケた。
仲良くなる対象とは別に、「シャドウ」を討伐する学生集団という仲間たちがいて、というかその両方に属する人もいるのでややこしいのだけど、彼らもまた問題を抱えていてゲームの進行とともに解決していく。こちらは節目節目に強制イベントがあって中ボス退治と一緒に話が進む。妹を亡くした上級生の男、自分が何をすべきか悩む同級生の男、母親を亡くした少年、父親を亡くした同級生の女など。ちょっとクサいところもあるけれど、彼らの一生懸命なところに引き込まれる。
戦闘はスリリングで面白いのだけど、ちょっとした油断があっというまにパーティ崩壊を招く。主人公が死ぬと即ゲームオーバーとなり、セーブしてあるところから再びロードしてやりなおさなければならない。敵シンボルに後ろから接触すると先制攻撃できてかなり有利な状態から始まるのだけど、逆に敵のほうからぶつかられると敵の先制攻撃となって、下手をしたら何も出来ないまま主人公が死んだり、かなり不利な状態から戦闘をしなければならなくなる。もうちょっとゲームバランスを考えて欲しい。まあ安全確実に攻略しようと思えば出来るのだし、先走りたがるプレイヤーのせいだとも言えるのだけど、ゲームをよりうまく進めようと思う楽しみがそのまま突然のゲームオーバーにつながるのはがっくりくる。
音楽がとても良かった。目黒将司というアトラス社内の人が作っている。このゲームの高い評判の一つとしても挙げられている。特にテレビコマーシャルでも流れたBurn my dreadや学園の初期BGMなどの洋物ボーカルっぽい曲がとてもしゃれている。ラップを効果的に取り入れていたり、ピアノ伴奏だけの独唱もの、ジャズ、デジロック風、エンディングのごく普通の日本の歌ものっぽい曲までバラエティ豊かな上にどれも印象的だった。サウンドトラックを作れる人というのは音楽業界の中で芸術的にかなり上の人という扱いを受けていて、色んなジャンルの音楽を作れないといけなかったり、ちゃんとコンセプトに従っていなければならなかったりするようなのだけど、良く言えば映像やゲームに溶け込んで強く主張せず溶け込み、悪く言えば埋もれてしまって聞き流してしまうものが多い中で、この作品のサウンドトラックは作品と調和しつつ魅力を放っていて素晴らしい。
本編とは分けてレビューしようと思ったのだけど、この廉価版のペルソナ3フェスには本編のほかに元々アペンドディスク(追加要素)として発売された同名作品が一緒に入っている。こちらは本編のあとの「後日談」となっており、プレイヤーは今度はアイギスという機械少女を操って、本編のあとに仲間を襲った不思議な事態を解決するために再びみんなで力を合わせて戦う内容となっている。三十時間程度の内容らしい。私は放置時間も合わせて五十時間弱掛かった。ちなみに本編は百五十時間近く掛かった。「ペルソナ」の合体とダンジョン探索に時間を掛けすぎた。録画しておいたテレビ番組を見ながら遊んでいたのでそんなに時間は気にならなかったけれど、いまどきのゲームにしては時間が掛かりすぎだと思う。ランダムなダンジョンの攻略に多くの時間を費やしてるし。
この追加要素はストーリー的にはそれほど見るべき点はないと思って途中まで惰性でプレイしていたのだけど、クライマックスで仲間割れが生じるところが結構熱い展開になっていて面白かった。マジ喧嘩するところは鳥肌が立った。それ以外はほんと、ほとんどダンジョン攻略なのであえてプレイする必要はないとすら思えるのだけど、うーん、暇ならどうぞって感じ。お笑い番組でも見ながら片手間にプレイする分にはそんなに気にならないし。
重要なイベントのときだけフルボイス、場合によってはアニメが入る。アニメの出来がいまいち。でも声優は豪華(だと思うたぶん)。声オタ(声優オタク)に少し足を踏み入れた私に分かる範囲では、田中理恵、緑川光、能登麻美子、豊口めぐみあたりは主役級な感じ。機械少女アイギス役の坂本真綾の声が微妙にかすれていて不愉快だった。ダメ男子役の鳥海浩輔という人が一番いい感じだった。いまWikipediaで見てみたら、水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメで目玉のおやじ役をやっていた田の中勇という人が、ベルベットルームの謎の老人イゴールの役をやっていたり、つい最近見た西尾維新「化物語」でヒロインの戦場ヶ原ひたぎ役をやっていた斉藤千和という人がフェスで機械少女アイギスの妹アティス役をやっていたりと、追ってみるとなかなか興味深くて面白い。そのうちに声オタになりそうだ。
こんだけ書いてもまだ書き漏らしたことがあるような気がするのだけど、そろそろ書くのが面倒になってきたのでこのへんにしておく。最近はゲームの中で大型RPGシリーズの存在感がなくなってきたり凋落著しかったりする某シリーズなんかもあって下火になりつつある気はするけれど、まだまだ面白い作品があることに安心した。日本のRPGが好きな人にはぜひ遊んで欲しい作品。
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