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海月姫(くらげひめ) 5巻まで
クラゲが大好きな地味な少女・倉下月海は、オタク趣味を持った女ばかりが住まう天水館という寮で仲良く共同生活を送っていた。そこへ女装した美形の男の子がやってきて騒動を起こしたり、寮の周りの土地の再開発事業に立ち向かったりする話。少女マンガ。

アニメ化されたのを見て、いまいちだなあと思って数話で視聴をやめたのだけど、やはりこれも原作の方が面白いパターンかと思って手を出してみたら、結構そのまんまでつまらなかったので途中で投げ出した。

寮のオタク女子の面々がガチで吹いた。三国志オタクとか鉄道オタクとかが容赦なくブサイクに描かれている。特にばんばさんなんて少年みたいだもんなあ。でも決して不愉快に描かれているわけではなくて、個性的だし面白くて愛着が持てた。なんでも三国志ネタにしてしまうのとか何度も笑った。

でもストーリーがなあ。この作品の核って結局、地味でブサイクな女子でも輝けるんだよ、劣っているわけじゃないんだよ、ってことだ。化粧して着飾ればこんなにきれいになれる、みたいな。美形男子がヒロインに惚れる。いままで女の子にモテモテで女の子のことを本気で好きになったことのなかった男の子がヒロインに惚れる。うーん。これってファンタジーとしても受け入れられるの?っていうか、地味ななりをしていても本当は化粧して着飾りたいんでしょ?ブサイクで日ごろ地味なのは仕方なくやってるんでしょ?って言っているように聞こえる。

一方で男女を逆にしたペアも平行して描かれている。先の美形男子にはまじめな兄がいてこいつは政治家の父の跡をつぐことになっているので、寮の周りの再開発事業がらみで不動産会社の美人キャリアウーマンにたらしこまれるのだけど、もてあそんでいるつもりだった女の方が逆に…みたいな。

アニメ化もされたほどだから人気作なんだろうけれど、読者はこんな安易で歪んだシンデレラストーリーでいいの?って思った。あ、シンデレラじゃないか。で、それを支える要素として、寮の再開発にみんなで反対する話だとか、先の兄と美人キャリアウーマンの話だとか、ヒロインがクラゲをモチーフにしたドレスをデザインして劇団がそれを使って公演するだとかあるのだけど、いまいち話が面白くない。突き詰めると、どれも話がふわふわしていてウソっぽいからだと思う。スケール感が合ってない。この登場人物でやるなら、もっと話をコンパクトにしたほうが良かったんじゃないかなあ。時の首相までお茶目に出しちゃってるし。バザーでクラゲ人形を作るあたりは良かったと思うんだけど、ドレスのデザインのあと一体どこに話を持っていきたいのかよく分からなくなった。

そもそもオタクのアイデンティティって外見にはないと思うんだけど、どうなんだろう。福満しげゆきがオタクな男の自意識の肥大みたいなものを小馬鹿にして描いていたけれど、まさか自分をギャルゲーの主人公に見立てたりはしないだろうし、それは女のオタクにも言えることだと思うんだけどなあ。BLみたいに男同士にやりとりさせることで、読者である自分のよりしろであるところのヒロインすら排除する場合もあれば、自分とはかけ離れた存在としてヒロインを用意して、そのヒロインに集まるイケメンを楽しむだとかで、自意識とは関係なく作品を楽しむ人の方が圧倒的に多いんじゃないだろうか。

そもそも外見ではなく性格に惚れられる、というストーリーが王道で、伝統的な少女マンガの多くはそのパターンだと思う。本当はヒロインって結構かわいかったりするんだけど、かわいいから好かれるんじゃなくて中身で好かれるってことになっている。だから読者から受け入れられてきた。かわいい、って言われてもそれは造形美じゃない。最近で言えば、椎名軽穂「君に届け」みたいな。

女のオタクたちの自意識とか行動とかはほんといい感じなのになあ。このキャラたちを使って作品を成り立たせるには、安易なシンデレラストーリーやバカ騒ぎしかなかったんだろうか。うーん。
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