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ヴィンランド・サガ 14巻まで
11世紀初めの北ヨーロッパ、ヴァイキングの一団に付き従っていた少年兵トルフィンは、首領アシェラッドと定期的に決闘を行っていたが、毎度返り討ちにあっていた。アシェラッドの一団はデンマーク王のイングランド征服に参加し、戦いにつぐ戦いの中で少年兵トルフィンはかつての父親が口にしていた非戦の教えに目覚めていく。少年マンガ。

日本のマンガやアニメが好きな外国人が集まるコミュニティでの掲示板のやり取りを翻訳したいわゆる「海外の反応」系のブログで、この作品のことがちらほらと取り上げられていたのを見て興味がわいたので読んでみた。

海外の作品が日本の文化や歴史を取り上げるとたいていトンチンカンになってしまうのに対して、日本の作品が海外の文化を取り上げると結構本格的なものを作ることが多い。でも日本人はヨーロッパや中国などの一部の主要な歴史しかあまり取り上げないので、マイナーな国の人たちが残念がっているのを時々見る。日本の作品に出てくる外国人はアメリカ人やイギリス人やドイツ人が多いので、たまにカナダ人とかオーストラリア人なんかが出てくるとその国のアニメ好きの人が喜んでいる書き込みがあって、ちょっとほほえましくなる。ヨーロッパというと「ベルサイユのバラ」のように中世の西ヨーロッパが取り上げられることが多い中で、この作品は11世紀の北欧のアイスランドやデンマークなんていうマイナーな時代や地域が取り上げられている稀有な物語となっているので、こんな作品が出てくる日本ってすごいでしょ的な思いを感じた。

でちょっと前置きが長くなったのだけど、正直なところちょっと期待外れな点が多かった一方で、話が面白いので引き込まれて既刊全部読了した。

期待外れだった点から先に言うと、題にある「ヴィンランド」っていうのはいわば理想郷のことで、この作品は戦士として生きてきた主人公トルフィンが戦いのない国を作ることを志すところへと向かっていることだった。自分が歴史ものというジャンルを基本的にほとんど読まない理由は、現在の価値観で過去の歴史を解釈しようとしたり物語をでっちあげようとしたりする作者の底の浅い考えが見え透いてくるのが嫌で嫌でしょうがないからだ。過去の出来事が意外と現代に通じるものであったりすることも多いので全部を否定する気はないのだけど、明らかにむりやり作者の考え方を押し付けたかのような登場人物がまるで現代の物語のようにふるまうのを見るとアホくさくて読んでいられなくなる。じゃあどんな歴史ものならばいいのかというと、古今東西変わらない人間の営みや性癖といったものを題材にしたものであるべきで、非戦なんてのはまったくありえず、むしろ世の中すべて戦いなのだということ、男が権力や財宝や女を巡って戦うのが当然であり、この平和な現代でもそれは変わらないのだということを語らないとダメだと思う。

この作品も途中までは本当に厳しい戦いや謀略が描かれていたのだけど、急にそれが一変して非戦の話になってしまう。とたんにしらけてしまった。…といってもそれはそれで続きが楽しみなストーリーが繰り広げられるのでしっかり楽しんでしまったのだけど。

もう一つ期待外れというかよくわからなかったのが王子の豹変だった。神父が王子にあの話をしただけであそこまで急に変わるものなんだろうか。これについてはあまり深く考えずに「王子があるきっかけにより豹変した」という話の流れをただ受け入れて読み進めば良かっただけのことなのかもしれない。でもこの先、主人公トルフィンの理想と王子の理想とは並立することになるわけで、この物語全体の中でも王子の思想というのはきわめて重要なのだから、もっとはっきりと分かりやすく描写されるべきなんじゃないかと思った。

面白かった点は第一に史実をもとにしていること。イングランドがデンマーク王のヴァイキングに侵略されるのとか、山で隔てられたウェールズが生き残りのために外交交渉をするところ。ちょうど最近イギリスでスコットランド独立投票が行われたのだけど、ウェールズもまた連合王国を構成する一つの地域であり、なるほどこういう地形的な理由があったのかと非常に納得できた。ただ、せっかく盛り上がったアシェラッドの物語があれで終わってしまったのはがっかりした。そういう緊張感がこの作品の魅力だから否定する気もないのだけど。

そして当時のヴァイキングの軍団規模や戦いの描写がとてもリアルで興味深かったこと。二百人ぐらいの集団が気まぐれにフランク王国の街を巡る戦いに参加したり、戦いが終わって冬になったら越冬のために友好的な村の中で飲んだり食べたりして過ごしたり、大きな戦いがあると首領の意志でどっちかの陣営に入って戦ったりする。時代が下ると権力の構造がだんだん見えにくくなるので、こういった集団の生の力学が面白い。

主人公トルフィンの姉で気が強いユルヴァという女がたまに出てきて男勝りな描写がされるのだけど、なんかいろいろしらけた。こういうキャラって本来自分は大好きなんだけど、さすがにこんな厳しい時代に力の弱い女がここまで強くは振る舞えないはず。弱さを見せるシーンもあるんだけど、少なくとも自分にはまったくハマらなかった。気が強いのは最高なんだけど、もっと力に屈服させられそうになるくらいのバランスのほうが読者的にもウケがよかったんじゃないかと思う。

恋愛要素は主要登場人物と脇役が少しだけで基本的にほとんどないと思った方がよい。

11世紀を舞台にしているのに登場人物が時々現代的なことをしゃべっているのが違和感あった。特にトルケルのセリフ回しで目についた。手塚治虫が好んでやっていた手法だしコミカルで面白いんだろうけれど、少なくとも自分はこの作品ではやってほしくなかった。せっかくリアルさを追求しているんだし、一貫性をもってストイックに進めてほしかった。奴隷女の美女が水仕事のせいですごく手荒れしているところとかちょっと感動した。

いくつかケチをつけてしまったけれど、読むと引き込まれる優れた作品だと思う。ちょっと変わった戦記ものや歴史ものが好きな人だけじゃなく、面白くて読みやすいマンガを読みたい人にも勧められる。
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