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僕だけがいない街
デビューしたものの鳴かず飛ばずだった若手マンガ家の藤沼悟は、ピザチェーンでバイトしながらもマンガを描き続けていた。彼には直近の過去を繰り返し体験する通称「リバイバル(再上映)」という特殊な力があり、まるでその後に起こる災厄を事前に防げと、大いなる意志から操られているかのようであった。そして彼は母親を殺される。SFミステリーマンガ。

2015年にアニメ化されたのを見て、先が気になるとても面白い作品だったのだけど、結末がいまいちしっくりこなくて、アニメ化されるときに尺の都合で駆け足になったり展開が変わったりしたのかなと思って、原作はどうなっているのか気になって手を出してみた。結論を言うと、アニメの結末は原作の冗長な部分をうまいこと変えていることが分かった一方で、テレビでは放映できそうにない犯人の物語を省いていることが分かった。

すべての始まりが悟の小学生の頃に起きた連続少年少女誘拐殺人事件にある。悟の特殊能力「リバイバル」は普段なら五分ぐらい前の過去しか繰り返さないのだけど、ついにこの能力は悟を小学五年生の頃まで巻き戻させるのだった。大人の知識と経験を持ったまま子供に還った悟は、時々同級生に怪しまれながらも事件を変えようとする。それが自分の母親の命を救うことにつながると信じて。

子供に戻った悟が、在りし日の母親の作ってくれたご飯を食べるシーンで涙があふれてきた。自分はまだ母親が元気に生きているし、子供の頃に当たり前のように享受していた贅沢な時間について特別な思いを持っているつもりはなかったのだけど、なぜかとても感動した。悟の気持ちがすごく伝わってきた。

私事だけど自分も小学五年生の頃はこの作品の舞台である札幌にいた。別れの挨拶「したっけ」は言った覚えも聞いた覚えもなかったけれど、語尾の「〜だべ」「〜べさ」はよく友達から聞いた。思ったほど懐かしくはなかったけれど、自分が自覚している以上になにか共鳴するものがあったかもしれない。

悟は最初の被害者である雛月加代を救うことから始める。母子家庭で育ち、母親と新しい男から虐待を受けていた加代は、自然となるべく家を避けて学校帰りに一人公園で過ごしていることが多く、犯人のターゲットになりやすい状況だった。そんな加代を孤立させないよう、友達と一緒に加代を仲間に入れようとする。最初は疑わしい目で見ていた加代だったが、悟の粘り強い行動に心を開いていく。この素朴なやりとりに心を打たれた。

とまあ非常に熱くていい話なのだけど、全体として見るといくつか気になるところがあった。特に終盤の意味づけがピンとこなくて、あまりいい読後感を得られなかった。

現代編でのピザ屋のバイト仲間である女子高生アイリこそが悟にとって一番カギとなるヒロインだという位置づけがされているのだけど、アイリってそこまで重要なキャラだっけ?アイリの信念は、あくまでアイリ自身を動かす原動力にしかなっていない。悟は当時ただの子供であり、信じなくてはならない側というよりは信じてもらう側だった。いちおう白鳥さんを信じるかどうかというポイントにはなっているけれど、子供の言うことなんて大して影響するわけがない。なんかこの時点で物語の構造がねじれていることが分かる。

となると結局のところこの話は、悟が強い意志で未来を切り開こうとする話にしかなっていなくて、あちこちに散らばっている思わせぶりな要素は大して機能していないと思う。加代を救うという行為は悟にとってどの程度の意味を持っていたのか。結果的な意味はあっても、過程的な意味は大してなかったのか。悟にとって加代の存在は最終的にあまり大きくなかったのか。加代が犯人のターゲットになっていなかったらスルーしたのだろうか。悟はこの長い道のりで一体何を学んだのか。悟自身にとっては、この時間遡行は大した意味を持っていないように思う。

題名である「僕だけがいない街」には二つの意味づけが与えられている。それは、無残に殺された雛月加代が作文に書いていたように、周りとの関係を見限って自分はどこか遠いところに行き、自分だけがいなくなった街を想像するという悲しい意味づけが一つ。そしてもう一つは、周りに強い影響を与えたがために、悟がいなくなっても彼の意志を受け継いでみんなが行動しているというポジティブな意味づけ。でも、それについて共感が得られる読者ってどのくらいいるのだろう。少なくとも自分は悟のようになりたくはない。

絵が拙くて顔の見分けがつきにくいことがたびたびあったけれど、全体的には読みやすかった。

マンガが好きっていう人には勧められるけれど、そうじゃない人に勧めるにはちょっと微妙なラインだと思う。ミステリーが好きでSFも許容できる人なら面白く読めると思う。
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