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フルメタル・パニック! 2巻まで
やたらと戦争ものに結び付けてとぼけたことばかり言う天然の高校生・相良宗介が転入してきて、生徒会副会長の元気な美少女・千鳥かなめは調子を狂わされっぱなしだった。それでもどこか憎めない彼の正体は、彼女の護衛任務で来た武装集団「ミスリル」の戦士なのだった。ライトノベル。

90年代に書かれたライトノベルの「古典」的なシリーズの一つとしてよく知られた作品で、自分はいまだに読んでいなかったので今回初めて読んでみた。結論から言うと、一応楽しめたけれど、もうこのノリは古くて時代を超えられなかった感じがした。

相良宗介は紛争地帯で育ったので一般常識を知らず、平和な日本の高校でついつい戦場の常識を当てはめてとんちんかんな行動をしてしまうというコメディの一面と、非情な国際情勢の中で強い意志で存在し行動し続ける謎の武装集団「ミスリル」の一員としての活躍を描いた戦争ものの要素がある。

この作品の舞台は現実世界とほとんど同じだけど、冷戦が終結しておらずソビエトが存在しつづけており、不思議な技術により戦闘用ロボットを始めとした現実にはない軍事技術が発達している仮想世界となっている。

まあちょっと考えてみればわかるように、ロボットというのは現実には兵器としては欠陥だらけで、地上では戦車のほうが、空中では戦闘機のほうが優れており、これらの壁を破れなければ戦闘用ロボットというものは存在しえない。よっぽど地面に凹凸がない限り二足歩行がキャタピラよりも優れているはずはなく、防御力からしても平べったい戦車のほうが強いに決まっている。もし実用化されるとしたら、市街地での戦闘に特化したAI制御の戦闘ロボットだと思う。瓦礫の中を自由に動き回れる小型の兵器を作るとしたら二足は難しいにせよ多足歩行のロボットになりそう。歩兵の持つ対戦車ロケットの性能が上がって大きな戦車はいい的にしかならなくなってきているため、小銃を跳ね返してロケット弾などを避ける小型の自律型戦闘ロボットは空爆の効果が限定的な市街戦で十分実用になりそうな気がする。

と話は脱線したけれど、有人戦闘ロボットというものが存在するロボットものにするため、この作品では不思議な技術の存在を前提としており、その技術を研究する鍵の一つとして日本の高校に通う普通の高校生の千鳥かなめが狙われるのが1巻のストーリーとなっている。

ちなみに彼らが通う陣代高校というのは、東京都調布市っぽいので神代をいじったのだと思う。ほかにも京王線沿線の駅の名前がちらほら出てくる。作者がこのへんに住んでいたんだろうか。

武装集団「ミスリル」の全貌は少なくとも2巻までには明かされないのだけど、原子力空母より大きい巨大潜水揚陸艦を持ち、搭載している様々な兵器により単独でそこそこ大きな作戦を遂行できる。その艦長がまだ若い女性だったり、軟派な白人兵士の同僚がいたり、かつて死線をともにした盟友がいたりと、相良宗介の周りには優れた人々が連なっている。そんな彼らが困難な作戦を遂行しようとし、立ちふさがる強敵を倒していくのがこのシリーズの魅力なんだろうか。一方でそんなすごい相良宗介が、日本の学校の中では単なる変人として不器用に過ごしているという非常に大きな振り幅で、シリアスだけでなくコメディもカバーするという欲張りぶり。人気になるのも無理はないなあと思った。

でも自分はこの作品を好きになれなかった。

ヒロインの千鳥かなめは男勝りで乱暴だけどかわいげがあって魅力的なヒロインだった。面倒見がよくて、何かごまかしたいことがあるときは「うはは」と笑うところなんかちょっと面白かった。結構自分のストライクゾーンの真ん中付近にきたはずなのだけど、不思議なほど惹かれなかった。相良宗介を子供扱いして包み込む母親のような支配的な感じがイヤなのかもしれない。同じ支配的なキャラにしてもたとえば涼宮ハルヒのような対等な(?)キャラとは違う。

戦闘マシンとして育った相良宗介が、人間的な心を取り戻していくというのが多分シリーズを通じての流れになっていると思う。任務を最優先すればいいはずなのに、自分の中の得体のしれない感情に揺り動かされ、宗介にとって千鳥かなめはかけがえのない存在となるのだった。でもなんか、子供が何かを吸収したり教わったりするようでちょっと不愉快だった。良く言えば親と子のように親密な関係が描かれているのだけど、悪く言えばベッタリとした未熟なコミュニケーションが描かれている。

女性に対する暴力の扱われ方がナイーブというか思わせぶりというか、敵も味方も過度に触れるのでこっけいですらある。

主人公の属する謎の武装組織が活躍するところはガイナックス「機動新世紀エヴァンゲリオン」だとか、ヒロインが何かのカギになっているところなんかは同「不思議の海のナディア」なんかによく似ている。これらの後ろの系譜に位置する作品なんだと思う。

最初にこの作品のノリが古いと書いたのは、相良宗介がやりすぎてクラスメイトをボロボロに打ちのめすものの、彼らがゆっくりと一斉に起き上がって目を光らせて仕返ししようとし、そのさまにおびえる宗介、みたいなノリのことで、90年代(?)のお約束の流れだと思う。面白いことは面白いけれど古いなあと思う(そりゃ書かれたのがその時期だからなんだけど)。80年代(?)の「〇〇はもうこりごり!」みたいなものなので、そのうち昔の作品を懐かしんでいじられるようになると思う。千鳥かなめの同級生のはやし立て方とかやりとりなんかもそう。

最近の作品よりも昔のほうが良かったなあという人なら読んでみるといいと思うけれど、そうでなければちょっと時代を感じて人によっては読んでいられないと思う。自分はこれ以上読む気が起きなかったけれど、いずれまた読みたくなるかもしれない。
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