斉木楠雄のΨ難 21巻まで |
高校生の斉木楠雄はすごい力を持った超能力者だが、正体がバレると面倒なので秘密にしていた。穏やかな日常を送りたいだけなのに、やたらと人に付きまとわれるのだった。少年マンガ。
2016年にアニメ化されたのを見て、すごく面白いわけではなかったけれど気楽に見ることのできる作品としていつのまにか毎週楽しみに視聴するようになっていたので、原作にも手を出してみた。題にある「Ψ難」は「災難」を一部ギリシャ文字に置き換えたもの。
作者自ら言っているように、序盤は超能力をネタにした一発もののギャグマンガで、サイコキネシス(念動力)やら透視能力やらすごい勢いで超能力ネタを消費していくやっつけ的な作品だった。燃堂力(ねんどうりき)やら灰呂杵志(ぱいろきねし)やら超適当に名づけられた脇役たちを使い捨てにする勢いでボケ倒していた。しかし長期連載が決まってからは(?)キャラクターを大事にしたシチュエーションコメディになり、個性的なキャラたちが毎度騒動を起こして主人公の斉木楠雄を困らせたり助けられたりするようになった。
何を考えているのか分からないアホなこわもてキャラの燃堂力、中二病をこじらせた海藤瞬、とにかく暑苦しい熱血男の灰呂杵志といったクラスメイトの男子のほかに、自他ともに認める美少女で斉木楠雄に惚れるがそれを認めたがらない照橋心美、並外れた食いしん坊で貧乏キャラの目良千里、アホくさいほど超移り気な夢原知予といった女子も暴走する。
斉木楠雄は強力な力を持っているのでやろうと思えば周りをすべてねじふせることが出来るのだけど、なるべく波風を立てたくないと思っているので、面倒ごとの気配を感じたらなるべくそれを避けようとする。人の心は読めるし透視やちょっとした未来予知さえ出来る彼なのだが、なぜか心を読めない燃堂力の気まぐれや、神に愛されているとしか思えない照橋心美の不思議な強運などに振り回される。また、彼は冷たいツッコミキャラのようでいて周囲の人々に気を配っており、周りがなるべく不幸にならないよう最低限のことはそれとなく面倒を見るようにしている。
一般人だけでなく特殊な能力を持った斉木以外の人物も何人か出てくる。人間の小さい霊能力者の鳥束零太とか、超常的な占いの力を持つギャルの相ト命(あいうらみこと)、天才的な頭脳を持った屈折した兄。彼らには彼らの能力と世界があって、色んな点で斉木楠雄をわずらわせる。
なにげに重要人物なのが斉木の両親で、見ていて呆れるほどのバカップルぶりを見せて楠雄や読者をあきれさせる。父親は売れないマンガ雑誌の編集をしていて超使えない仕事ぶりを見せるし、母親は悪質な訪問販売に騙されるなど無邪気で天真爛漫なキャラで、妙にかわいい。心の中では冷たいことを言う楠雄も実は両親を愛していることがうかがえてほっこりする。
楠雄は動物の心も読めるので、猫もしゃべる。オス猫のアンプは日ごろ人間からちやほやされるので自分は人間よりも偉いと思っており、近付いてきた楠雄に対しても偉そうに振る舞うのだが、動物をかわいいと思わない楠雄に袖にされる。
超能力の妙な制約を切り抜ける話なんかも面白い。楠雄は物体を転送させる能力を持っているが、等価交換で同じ価値のあるものと交換することしか出来ない。ただしプラスマイナス5%程度の誤差は大丈夫なので、徐々に価値のある物体を転送させようとして、最後失敗してオチるとか。時間を巻き戻してモノを修理する力とか自分を透明化する能力とかもあるけれどそれぞれ欠点があって思うようにいかない。
なんだろう、文章でいくら説明しても面白さが伝わりにくい。自分にとってこの作品の最大の魅力は、どうしようもないけれどあたたかい世界だと思う。みんな心が狭かったり自分のことしか考えていなかったりするけれど、どこかあたたかくていちおう丸く収まる。ギャグマンガにありがちな、いつもひどいめにあうオチ役のキャラがいない(?)。まあ目良さんはひどい扱いだけど損はしていないし、燃堂は気にしてないだろうし。その分、ギャグマンガにしてはヘンな空気で終わることも多いけれど、そこもいい。
個人的には、ギャル占い師の相ト命が結構好きなのだけど、出番が少ない。かわいい感じのギャルではなくて男勝りでマイペースで自分勝手なのだけど、同じ能力者として楠雄のことを尊敬し、愛しているところなんかがかわいい。あと、照橋心美は性格が表向きゲスいけれどひたむきなところがよくて好き。楠雄の母親がアホかわいい。男キャラだと、教育ママに逆らえない海藤瞬がそれでも友情をとって反抗するところとか、息子だからと圧倒的な力を持つ楠雄をアゴで使おうとする(そして失敗する)父親とか、あとはなんといっても主人公の斉木楠雄の心の中での冴えたツッコミが毎度よかった。あ、中盤から出てくる元不良のやつもよかった。
ボボボーボ・ボーボボやマサルさんなどのギャグのスーパースターを見て爆笑したい(誤用)のであれば手を出さないほうがいいけれど、シレッとした中でクスッとしてホッコリするようなギャグマンガが楽しめそうなら読んでみてほしい。
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