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Angie universal fit
韓国iriverのオーディオブランドASTELL&KERNが、アメリカのオーディオ機器ガレージメーカーJH AUDIOと提携して作った高級イヤホンのうち、カスタム(オーダーメイド)じゃないほうの上から3番目の初代モデル。片側8個ものバランスドアーマチュアドライバ(高域4+中域2+低域2)が心地よい音を出す。

外に出るときに愛用しているゼンハイザーのヘッドフォンHD25-1IIとは違ったものが欲しくなり、先日行われた国内最大のポータブルオーディオの展示会であるヘッドフォン祭り2017春で第一候補のSHURE SE846を試聴したのだけどあまりパッせず、いくら視聴してもその場で適当に聴いただけではよく分からないことが分かったので(iPhoneしか持っていかなかった自分も悪いんだけど)、いっそのこと割り切ってネットの評判と割引率だけで選ぼうと思っていたところ、ちょうど新宿ヨドバシのアウトレットにポツンとこれが置いてあったので衝動買いした。発売当初の定価が19万ぐらいで、その後に値下げと二代目モデルが出たことによる在庫処分で10万で投げ売りされたものの、それでも売れなかったらしく8万(さらにポイント10%)まで下がっていたようだった。


ここ最近「ハイレゾ」と称して高音質音源の再生を謳った製品が煽られており、ソニーのハイレゾウォークマンを始め、オンキョーやらパイオニアやら(もうオーディオとしては同じ会社か)色々とデジタルオーディオプレイヤーを出しているのだけど、世界的には韓国や中国のメーカーが強く、なかでもこのASTELL&KERNというブランドを擁したiriverが高級機路線を最初に推し進めて市場を作ったらしい。そんな彼らはイヤホンやヘッドフォンも自分たちの機器に合わせて作っていて、その一つがこれ。イヤホンの高級路線を推し進めたJH AUDIOと組んでいるところがちょっと笑える。最上位モデルLaylaは40万近い値で売り出されて市場の度肝を抜いた。

AngieはLaylaと比べてドライバ数(スピーカーで言うところのユニットつまり音の出る部分)が12から8に減っていて、正確さよりも心地よさを優先したモデルになっているらしい。減らしていないのは高域つまり倍音成分なので、聞いていて爽快な感じがする。ULTRASONEのS-LOGICのような色付けはないし、エッジが強いかなというぐらいで自然に聴ける。高級ヘッドフォンやイヤホンはその力を発揮するために再生機器にも性能を要求するもので、そうしないとボケた音になることが多いのだけど、このAngieは高域に偏りがあるせいか普通にiPhoneでも気持ちよく鳴ってくれる。

低域が弱いかというとそういうわけではなくて、なんと調整できるようになっている。専用ケーブルは片側で4ピンあり、中高域と低域とで別々になっていて、低域だけケーブルの途中にあるツマミをいじって増減できる。メガネ用のドライバで調整するようになっており、違いが分かる程度には変わるので好みに設定できる。この仕組みを導入したことで、結果的にいわゆるバイワイヤリングになっていて、低域と中高域とでケーブルを別々にすることで互いに引っ張られあうのをある程度防いでいる。まあケーブルだけで駆動部は同じなのでどこまで効果があるのか分からないけれど。

ケーブルといえばバランスケーブルも付属している。ASTELL&KERNはバランス接続できる2.5mmのジャックを推し進めていて、自社のデジタルオーディオプレイヤーに搭載して差別化を図っているので、当然同社から出すヘッドフォンやイヤホンもそれでバランス接続できるようにしているのだ。バランス接続というのは、簡単に言うと左右のGND(アース)を別々にしたもの。一般的なヘッドフォンのケーブルを分解すると線が三本入っていて、それぞれ右と左とGNDなのだけど、バランス接続だと右と左のそれぞれにGNDが用意されている。そのおかげで、右と左とで微妙に混ざってステレオ感が落ちるのを防ぐと言われている。でも回路をちゃんと作っていれば防げるし、多少混ざったところで同じソースなのだからほとんど変わらない。2.5mmのジャックを持った機器を持っていないので自分はまだ試していない。

大手メーカーとして初めて十万円以上というヘッドフォンの高級路線を打ち出したbeyerdynamicの初代T1を、ヘッドフォンアンプとしても定評のある業務用のフラットなUSBオーディオインタフェースであるFireface UCで鳴らすのが、自分の持っているシステムの中でリファレンス的な音なのだけど、iPhoneとこのAngieのほうが高域が多少うるさいけれど多分いい音をしていると思う。T1の音の感じをAngieに近づけるために高域をイコライザで持ち上げてみたけれど、Angieのように気持ちいい音にはならなかった。逆にAngieをT1のようにフラットな音にすることは難しいのだけど、一応イヤーピースを耳に密着させると低音が増してフラットに近づく。でもどちらにせよ割と自然な音が出ていて、よっぽどフラットにこだわりがある人でなければこれでいいんじゃないかと思う。

ただ、自分はスピーカーのシステムも持っていて、さすがにMarantz PM-11S2とKripton KX-3Pの組み合わせのほうが自然かつ気持ちいい音を出している。このシステムは中高域が美しいマランツとクリプトンを組みあせた特化型のシステムなので低音が弱いのだけど、その分Angieと性質が似ていて上位互換って感じがする。それでもAngieの高域のエッジの効きは特筆すべきで、この点についてはAngieのほうがよかった。

オーディオ機器で一番コストパフォーマンスが高いのはたぶん一万円以下ならイヤホンで、小さいので駆動しやすく適当なスマートフォンに差しただけでそれなりにいい音が聴けると思う。しかしそれ以上の価格帯になると、小さいがゆえに精密になってしまい、音場感なんかが有利なヘッドフォンのほうがいい製品が多いように思う。ただしちょっと大きくなるのでいい音を聞こうと思ったら再生機器も力強いものにしなければならなくなる。スピーカーは一番いい音を鳴らすけれど、機器だけでなく部屋も必要なのでなんだかんだで一番金が掛かる。そんなわけで高級イヤホンというのはいい音を得るための一番手軽な手段なんじゃないかと思う。

自分がいままで高級イヤホンに手を出してこなかったのは(SHURE SE315も普通の人の感覚からしたら十分高級イヤホンだけど)、小さいと落としたりすれ違う人にひっかけたりして壊れやすそうだなというのと、正直に言うとこんな小さいものにそんなに高い値段は払えないという気持ちが大きかったと思う。ただ、なにせ精密なものなのでそれだけの価値は十分あると思いなおした。補聴器だっていいものを探すと三十万ぐらい掛かるものらしいし。まあ補聴器は周囲の音を拾って増幅する部分があるからその分コストが掛かるんだろうけど。

Angieの一番の欠点は、大きすぎることだと思う。上位モデルのLaylaほどではないけれど結構大きく、いわゆるシュアー掛けでワイヤー入りケーブルを耳に引っかけて引き上げることで支えられるのだけど、結構ギリギリ感がする。ちょうどいい位置をキープするのに最初手間取った。耳の穴に密着させすぎると低音が増えてこもった音になるし、かといって放し過ぎると中低音が減り過ぎてシャリシャリした音になる。イヤーピースがシリコンとウレタンとでそれぞれ大中小と入っているので、自分に合ったものを選ぶといい。自分の場合、いくつか試したあげく最初からついていたシリコンの中型を使っている。慣れると普通のイヤホンとそんなに変わらずに使える。

次に、十万以上出して「気持ちよく音楽が聴ける楽しいイヤホン」を欲しがるだろうか?という存在意義にかかわる問題点がある。高価なものであれば万能であってほしい。そのせいかどうか知らないけれど、現に私が安く手に出来たのは売れ残っていたからであり、二代目モデルもNTT-X STOREで99,800円だったかで投げ売りされていた。ただ、一度手に入れた人はあまり手放したがらないようで、中古に並んでいる量は上位モデルと比べて結構少ない。ちなみに万能型が欲しければいまだとbeyerdynamicのXELENTOがいまならとても評判がいい。ただ、現在品薄のようだった。

たぶん次のモデルが出るときに現在のモデルはまた特価セールされるので、興味があったらいくつかのネット通販を監視しているといいと思う。NTT-X STOREならメーリングリストが平日毎日送られてくる。ほかはヨドバシやビックカメラやアマゾンやfujiya AVICやeイヤホンやサウンドハウスあたりが定番か。高級イヤホンを出しているメーカーは色々あるので、いくつか知っておくと特にこだわりがなければどれかの上位モデルを安く手に入れることが出来ると思う。まあ一番いいのは、試聴できる店で十分試聴して自分の気に入ったものを納得して通常価格で買うことなんだろうけど、その場で視聴してもよく分からないことが多いので自分は勧めない。

イヤホンに十万以上も出せないという普通の人だったら、五千円までしか出せないならKOSSのPORTAPRO(音漏れするけど)かCreativeのAurvana Live!あたりを、一万円ちょっと出せるならSHURE SE215を、二万出せるならsennheiserのHD25(旧HD25-1II)を買うのがいいと思う。これ以上となるとヘッドフォンだったら強力なデジタルオーディオプレイヤーか専用のヘッドフォンアンプが必要になるので難しくなるけど、手持ちのスマートフォンでもそこそこいい音で鳴ってくれる高級イヤホンも選択肢に入れてみてはどうだろうか。
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