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小林さんちのメイドラゴン 6巻まで
IT企業に勤める独身女性の小林さんのもとに、メイド服を着た謎の少女トールが住み込みで働かせてくれとやってきたが、その正体はなんとドラゴンだった。彼女の他にも色々なドラゴンが人間界にやってきて、それぞれ奇妙な同居生活を始める。少年マンガ。

最近アニメになったのを見て、主人公の小林さんのほどよい地味女ぶりがなにげにかわいかったのと、幼いドラゴンのカンナが人間の小学校を羨ましがって通うようになる展開とか、魔法使いの家系の小さな男の子が悪魔を呼ぶ儀式をしたところへ偶然通りかかってひょっこり魔法陣から出たために悪魔に間違えられているルコアさんとか、色々楽しみな要素があって原作をじっくり見てみたかったので読んでみた。割と面白かった。

この作品のメインヒロインは題名にあるように「メイドラゴン」の金髪少女トールだと思う。ドラゴンの世界で色々あって自暴自棄になった彼女が、自分の好きなことをやろうということで小林さんの影響を受けてメイドをしている。ドラゴンなので最初は人の世界のことをよく分かっていなかったのだけど、適応力があるのですぐになじんで人間の友達を増やしている。この作品には色んなドラゴンが出てきて頓珍漢なことをするのだけど、その中でトールは比較的常識人なほうかな?だからというわけじゃないけれど、正直自分はあまり彼女のことが好きになれなかった。小林さんのことが好きという百合(同性愛)設定は自分にとって大好物のはずなのだけど、すごくカジュアルに描かれていて軽いし、百合がギャグとかちょっとほのぼのする程度にしか使われていない。

小林さんは髪を後ろに束ねてメガネを掛けたいかにも働く女性といった感じで、見ようによっては男にも見える。性格もどちらかというと男っぽいというか、あまり自分の中に女を感じておらず、トールに好かれていることに戸惑っているところなんかグッとくる。でもこういう人はなかなかいないと思う。どんな女性も大体女として振る舞っているものだから。

幼いドラゴンのカンナは、白いタイツを履いていて無垢な童女といった感じ。小林さんのことを小林と呼ぶのはいいとして、トールのことを「トール様」と呼んでいるのは、子供のくせになんでこういうところだけルールに従っているのか意味不明なのだけど、色々と超越したドラゴンの子供って感じがしていい。そんなカンナが小学校に転入し、その無垢なかわいさに才川というお金持ちでちょっと性格の悪い女の子が惚れる。なにげにこの作品百合要素の割合が高いな…。でもやはり基本ギャグにしか使われていなくて、特にこの才川の振る舞いが安易すぎてひどい。そしてシリアスな百合は各話を締めるのに便利なせいかこれまた安易に使われているし。

数少ない男のドラゴンとしてファフニールさんという陰キャ(陰気なキャラ)がいる。こいつは口では人間を下等な存在だと常々言っているのだけど、ゲームとかが好きになって小林の同僚の滝谷という男のもとに居候するようになる。ツンデレぶりはかわいいんだけど、どうも自分はこいつ嫌なやつだなという思いが勝ってしまってあまり好きになれなかった。

この作品はドラゴンと人間とがペアになっていて(エルマとイルルを除く)そのやりとりが面白いのだけど、自分が一番好きなのは翔太君とルコアさん。翔太君がとにかくかわいすぎる。ルコアさんはおっとりした巨乳痴女だけどその正体はケツアルコアトルという強力なドラゴン(?)で、翔太君は自分がとんでもない悪魔を召喚してしまったと思いつつも、彼女に飲まれないよう精一杯の虚勢を張っている。そんな翔太君のことをすべて見透かしつつも、人間の世界にとどまっていたいし何より翔太君のことが好きなルコアさんは、自分が無害な存在であることを必死にアピールしようとするのだけど毎回裏目に出て、淫靡な悪魔サキュバスだと思われているのがウケる。

エルマはトールのライバル(?)で、小林の会社に入って稼いだお金でおいしいものを食べることを生きがいにしている。アニメだと人気キャラ扱いされていたけれど、アニメも原作もそれほどエルマを前に出しているようには見えなかった。食いしん坊キャラが読者にウケていたんだろうか。イルルはなんのためにいるキャラなのかよくわからなかった。

というわけでこの作品は日常にドラゴンがいてハチャメチャ(死語)なことをやるのが大体なのだけど、時々シリアスな展開がある。トールの父親の終焉帝がトールを連れ戻そうとしたり、トールやエルマなんかの過去の話が語られたりする。正直シリアス展開は全然面白くなかった。なんのためにやっているんだろう。トールがこんな過去を経ていまを生きているんだよ、みたいなことを語ることで人物造形に奥行きを持たせたいんだろうか。

ドラゴンとは強靭な肉体のみならず高度な知能も持ち、寿命も長い高等な生き物なのだけど、そんなドラゴンの気持ちを読者に共感させるのは無理があると思う。トールなんて神々にたった一人で戦いを挑んだっていう設定になっている。多分作者は、社会秩序とか親のしがらみとかに従って生きてきた人に、好きなことをやればいいんだよ、誰かのために生きることだって素敵なことなんだよ、みたいなことをトールで言いたいのかもしれない。そう考えるとトールは、バリバリのビジネスウーマンがふと悟って仕事をやめ、好きな男のために尽くしている、みたいなものなのだろうか。でもそうするとウーマンリブ的な圧力が掛かるかもしれないので、トールの相手に小林さんという女性を選び、トール自身も人間ではなくドラゴンにしたのだろうか。うーん、考え過ぎかな。

ドラゴン同士で力に差があるのはなぜなんだろう。それによって微妙に上下関係っぽいものが生まれるかと思いきやそういうわけでもなく、ちょっとモヤモヤする。人間と比べて圧倒的に強い存在同士、多少の上下はあっても戦えば長引くだけ、みたいにならないんだろうか。その気になれば相手を滅ぼすことも可能にしている意味が分からない。リアルなのかもしれないけれど、神話にあるような何となく惹かれる感じもなく、ただの微妙な人間関係になっちゃってると思う。

絵がかわいい。ルコアさんの不自然に大きな胸以外はみんなかわいい。特に小林さんとカンナが好き。でも翔太君のおとうさんがあからさまにヘンで、ドラゴンたちのことを知っているという訳知り顔の設定もあって、出てくるたびにイヤだなあと思う。

ちょっと変わったキャラクターものが楽しめそうな人は手に取るといいと思う。
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