最強伝説黒沢 |
土木工事の現場監督をやっている黒沢という30代独身の冴えない男が、ある日突然自分の身を嘆き、自分はどうしたいのか、どうされたいのかを考え、そのためには何をすればいいのか悩み行動していく物語。
作者は「賭博黙示録 カイジ」でブレイクした福本伸行。相変わらずクセの強い絵で、濃い物語作りなのもそのまま。カイジでは極限の状況に置かれた人間たちが繰り広げるギャンブルツアーという非日常を描いていたが、今作では一人の土木作業員の日常のなかにある非日常を描いている。
この作品は喜劇なのか悲劇なのか。人により受け取り方が違うと思う。私はたぶん悲劇だと思う。なぜならば、私自身の中にある黒沢が共鳴し、黒沢の悲しさが伝わってくるからだ。しかし人によっては喜劇と思うだろう。馬鹿でみじめでやることなすことが裏目に出る黒沢という男を笑い飛ばす話になるからだ。
具体的なことを書かずに話を進めてきたが、最初に黒沢が求めたのは人望である。なんとなく働きつづけ、同期が去っていく中で一応現場監督になり、相応の扱いは受けていた。しかし、後輩たちから慕われるという状況からはほど遠い。そこで彼は、慕われるにはどうしたらいいのか考え、一つ一つ実行に移していく。ところが悲しいかなそれが次々と裏目に出る。それどころか、同じ現場に救援としてやってきた会社のホープ・赤坂にその人望を見せつけられ、ますますみじめになる。
まず人望を得ようと行動しはじめた黒沢は確かにこっけいだ。なぜなら、人望とは得るものというより付いてくるものだからだ。人のためになることをすることで自然とついてくる。黒沢は別に人望を得たら得たでそこから何か利益をもとめているわけではなく、人望そのものがほしいと考えている。しかしこれは黒沢に限らず多くの人が考えることでもある…ただ実行はしないだけで。
人望を得たいと思うこと自体をこっけいに感じる人にとっては、この作品は間違いなく喜劇である。人望を得たいと思うのは人間として当然だと何らかの同情を黒沢に感じる人にとっては、この作品は悲劇になりうる。
誰かとつながっていたい、という現代の若者の問題と通じるものがある。人望が欲しいと思うのは多少歳をとった世代だろう。
私は正直この作品は期待以上であった。つまり裏を返せばそんなに期待していなかった。この作者が描くものはこのあたりまでだろうと見くびっていた。まだこの先の展開がどうなるか分からないのだが、一巻を読み終えて本を閉じたときに、確かな余韻を感じた。
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