アルテ 11巻まで |
ルネサンス期のイタリアのフィレンツェで、貧乏貴族の娘アルテは嫁入り前の習い事の一つとして絵画をたしなんでいたが、次第にのめり込んでいき絵描きとして生きていくことを決意する。マンガ。
2020年にアニメ化されたのを見て面白かったのでこの原作を手に取ってみた。自分は変わった女の子ががんばる話が好きなのでそこそこ楽しめた。
この時代の絵描きは看板職人と似たようなものなので、貴族の女の子がやるようなことではない。男社会の中に単身踏み込んでいくのだから色々と障害が立ちはだかる。まず弟子入りさせてくれる親方がいないし、当然親からも反対される。
ヒロインのアルテはのめりこんだら周りが見えないほど集中力があり、自分のやりたいことをやるために邁進する強い意志を持っている。彼女は持ち前の行動力により状況を打破していく。それがこの作品の一番の魅力だと思う。
でもその割にそんなに惹かれなかった。
アルテが女としての魅力に欠けているかというとそんなことはなくて、容姿はかわいくて、露出は少ないけれど健康的で肉感的だし、弟子としてひたむきに親方を支えつつ自分の仕事にも打ち込んでいる。女だからと見下されても真っ向からは歯向かわず見返してやろうと努力をする。学のない針子に勉強を教えるやさしさがあるし、逆に親切にされたら素直な笑顔を向けて感謝するという、まっすぐで気持ちいい性格をしている。これで好きになれないはずはないとすら思える。
結構考えても自分がこいつに惹かれない理由がよく分からなかったのだけど、そのうちなんとなく答えが見えてきた。この作品、いまネットで猛威を振るっているフェミ(狂信的なフェミニスト)からはおそらくケチをつけられないと思う。
まずアルテを好きになる男がいない。男社会の中でアルテに関わる男はいっぱいいるのに誰一人として彼女を女として扱わず、あくまで「男ではないなにか」としてしか見ていない。唯一の例外がアルテの親方レオなのだけど、なんとなく態度で悪からず思っているぐらいの描写しかない。それにそもそもアルテのほうがレオのことを好きなのだ。ちなみにアルテがウブすぎて軽く引く。
作中アルテは何度かひどい目にあわされるのだけど、女としてひどい目にあうのではなくてあくまで人間としてひどい目にあう。男でも苦労するような重いものを持つよう言われたり、牢屋に入れられて拷問を受けそうになったりするけれど、そこには女が暴力に屈するという構図がまったくない。作品から性が巧妙に排除されている。きっと少年マンガやライトノベルなんかだったら必要もないのに女が女として暴力に晒されるとか晒されそうになる描写やほのめかしが積極的に行われるのに、この作品にはそういうものが一切ない。
高級娼婦つまり売春婦が作中出てくるのだけど、彼女は常に男を手玉に取る側だ。彼女の姿は裸体でも出てくるのだけど、自信に満ちた大人の女として描かれている。男に捨てられた娼婦も出てくるのだけど、男にのめり込みすぎたことが原因だったとされている。またこいつも後日、男に捨てられて不幸になったのではなくて自分自身の意志で男を愛したのだから幸せだったのだという解釈が添えられる。
作者が女性だからと一言で言ってしまえばいいのかもしれないけれど、女性作家だからといってここまで丁寧に女性を扱っている作品は珍しいと思う。
こんなことを言うのもなんだけど、自分は女性が女として力に屈するような描写や、力に対して精一杯抗っている姿が魅力的だと思っている。だからそういうものが一切ないこの作品にあまりピンとこなかったんじゃないかと思う。というかこの作品には男の劣情すら存在しない。あるのはただ女性をあがめて愛を捧げようとする男の姿だけだ。
アルテの絵描きとしての腕は、うまいヘタについてはそこそこといった感じだけど、女性特有なのかやわらかい独特な線で描くことが評判で、肖像画家として人気を得ていく。しかしまだ宗教画がもっとも高尚で価値があるとされている時代であり、宗教画を描くにはもっと教養を身につけなければならないからとアルテは勉強する。まあこのあと時代的には宗教画と貴族相手の商売は先細っていき、金持ち商人や庶民相手の肖像画や静物画が流行っていくみたいなのだけど。
ヴェネツィアのカタリーナの話がやっぱり一番良かった。カタリーナの振る舞いの謎と強い想いに泣けた。アニメでもちょうどこのエピソードがクライマックスになっていて、いまのところアニメは一番いいところを切り取ったと思う。アニメ見ていればマンガは見なくてもいいと思う。続きが気になる人は読むしかないんだけど、いまのところそれほど印象に残った話はなかった。
アルテはなんだかんだでかわいいし応援したくなる。話の筋もそれなりに面白いので、誰が読んでも楽しめる優れた作品だと思う。ただ、多くの男が魅力を感じるであろう決定的な要素に欠けると思うので、その点は最初から期待せず清らかな作品として読んでもらいたい。
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