ダンジョン飯 10巻まで |
巨大な空洞の内部に城を持つダンジョン(洞窟)を探検していた冒険者ライオスの一行は、深部にてドラゴンと遭遇し敗北した。妹ファリンは自分の身をかえりみず仲間たちを魔法で脱出させ、自らはドラゴンに食べられた。ドラゴンに消化されるまえに妹ファリンを救助するため、ライオスは再びダンジョンへ向かおうとするが、仲間の一部が離脱した上に十分な携帯用食料を買う金もないため、道中の魔物を食べながら進もうと言い出す。ファンタジーマンガ。
グルメもの、しかも独自のファンタジー世界での独特な食材を扱ったものという時点でまったく興味をひかれなかったのだけど、いろんなランキングで1位になっていて気になったので読んでみた。とても面白かった。
魔物を食べようと言い出す戦士ライオスにみんな最初は大反対するが、試しに歩くキノコを食べてみて(!)なんとかなりそうだと思うようになる。そこへたまたま通りかかったドワーフのセンシ(まぎらわしいけどこれ名前)が共鳴し、事情を聞いた彼はドラゴンを食べてみたいと言い出して一行に加わる。
エルフの女の子マルシルは魔物を食べることを最初猛烈に嫌がって駄々をこねるのだけど、大親友のファリンを助けるためと自らに言い聞かせて必死にこらえる。こいつが表情豊かでとてもかわいい。魔術学校始まって以来の才女で強力な魔法を使うけれどおおざっぱでどんくさい。
ハーフフットというホビットのような小柄な種族のシーフ(?)チルチャックは外見とは異なり非常に大人びており、一行の中で一番冷静な判断をする。敵の気配の察知や罠の感知と解除に活躍するが、体格に恵まれないため戦闘ではあまり役に立たない。また、とても憶病。大きい耳がチャームポイント。
このチルチャックのことを最初ショートヘアの女かと思っていたら実はおっさんだった。逆にライオスの妹ファリンはベレー帽をかぶっていて最初男だと思った。男の記号や女の記号が全然露骨でなく、登場人物がみんな素朴に描かれており、男女問わず人間的な魅力にあふれていて自然にかわいい。この絵はなにげにすごいと思う。
題のとおり各話なにかしら魔物を食材とした料理を作って食べるのだけど、魅力的な登場人物としっかりしたストーリーがメインなので料理はどちらかというとおまけみたいなものだった。自分はグルメマンガが基本的に大嫌いで、しょーもないストーリーをなんだかんだで料理と結び付けていい感じっぽく各話完結させるのが読んでいられないからなのだけど、この作品に関してはまったく心配無用だった。
一行の目的は深部を徘徊するドラゴンを倒して妹ファリンを救出することなので、まずはダンジョンを深く潜っていくことになる。このダンジョンは階層によって特徴があって、そこに住む魔物たちも色々いるので、まずは戦って倒し、そして最後に喰う。その繰り返しで話が進んでいく。
いよいよドラゴンと戦う段になると、「狂乱の魔術師」が現れて邪魔をする。そこからこのダンジョンにまつわる物語の真実が明らかにされ、一行は過去の不幸な出来事に終止符を打つために奮闘することになる。
そのあいだ、ライオス一行を抜けて独自に妹ファリンを助けるために家臣団を連れて深部に向かう侍シュローたちと同道したり、敵か味方か分からない他の一行たちと接触したり、ついにはダンジョンを自分たちの支配下に置こうとする西方エルフの部隊が制圧しにきたりと、様々な登場人物が交叉しながら物語が織り上げられていく。みんなそれぞれの想いで行動しており、利害が対立したり意見が合わず決別したりもするけれど分かり合えるところは協力する。
登場人物がみんなほんと魅力的で、細部まで味わわせてくれる。侍シュローの一行にいるオーガの女戦士タデなんてストーリー的には完全に脇役なのだけど、東方の鎧を身につけた大柄な体におかっぱの女の子の顔が乗っかっていて不器用そうにドタドタと走って戦うところとか、拾ってもらったことを恩に感じて一生懸命家に尽くそうとしているチョイエピソードがさらりと語られてじんわりきた。
異世界転生物のお気軽ファンタジーも自分は好きだけど、やっぱりストーリーもキャラクターも世界観も素晴らしいこういう作品を読むと本物だなあと感動する。
一応難点として、ファンタジー世界になじみのない人には特に最初は読みづらい話かもしれないけれど、読んでいけばきっと分かってくるだろうからそういう人にも読んでもらいたい。
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