ザ・ファブル |
ファブルと呼ばれている伝説の暗殺組織の中でも超一流の腕を持った男が、相方の運転手の女とともに一年間の休業生活を大阪で送るようボスから言われた。組織のいいお客さんだった小さなやくざ真黒組に身柄を預かってもらうこととなったが、おとなしく暮らしたい二人に対して若頭の海老原はやっかい払いしようとする。青年マンガ。
テレビ朝日系列「アメトーーク!」のヤングマガジン芸人という特集でこの作品が少し取り上げられていて、凄腕の殺し屋がとぼけた所作でチンピラを手玉に取る様子がすごく面白そうだったので読んでみた。面白かった。
佐藤アキラとヨウコと名乗った二人は、真黒組が持つ隣り合わせた小さな一軒家でそれぞれ一人暮らしを始める。連日連夜飲んで過ごすヨウコに対して、アキラは普通のアルバイトをしようと求人募集に応募する。
アキラは殺しの腕は天才的なのだけどそれ以外は純朴な青年で、低俗なお笑い芸人ジャッカル富岡をこよなく愛している。家の中では真っ裸で生活し、日々筋トレをこなし、夜はベッドに人型のふくらみを作って自分は浴槽の中で寝る。
世渡り能力は一般人以下なので、アルバイトの面接もなかなか思うようにいかないのだけど、ようやく零細デザイン会社に雇われてバイクで配達する仕事につく。よく街で見かけていた苦労人の美人ミサキがその職場にいた。
序盤は平穏に暮らしたいアキラに対して、真黒組の若頭である海老原が不気味に思って組長に内緒で処分しようとするが、アキラの思いが本気であることを理解し見守ることにする。しかし組の中でごたごたが起き、海老原は悪いと思いながらもアキラを利用しようとする。
アキラのキャラクターが面白い。自然児って感じ。ものすごく強いけれど嫌味がない。バイト先でもトイレ掃除などまったく嫌がらずにこなすので社長からも気に入られる。慣れない敬語もたどたどしく使う。かっこいいタイプの主人公ではないと思うのだけど、一周回ってすごくかっこいいと思う。
組織に言われるままに何十人と殺してきたアキラだったが、大阪での一般人としての生活の中でインコを飼って生き物をめでることを始める。そうしているうちに自分がいままで殺してきた人々や残された家族のことが気になり始める。
自分がこの作品を素晴らしいと思ったのは、人物造形がとてもリアルなことだった。アキラは安易に自分のこれまでの行いを反省したりはしない。ただ落ち着いて自分の心の動きを観察し、どうしたらいいのか考えている。
やくざたちもそれぞれが自分の考えで動く。上から言われたことにある程度は従いつつも自分の利を考えて独自に動き、それが誰かの利害と衝突して戦ったり、面子を守りつつ手打ちにしたりする。だから話の展開がドラマチックかつ説得力があった。
だから一番残念だったのは、終盤で山岡という一人の異常者によって物語が引っ張られる形になったことだった。
戦闘の描写がとてもかっこいい。基本的には銃で撃ちあうのだけど体術もあるし、身の回りのものを利用したり、ちょっとした創意工夫で有利に戦ったりする。
携帯電話やGPSやドライブレコーダーや監視カメラといった現代社会ならではの技術がたくみに取り入れられていて、その中で殺し屋という現代のファンタジー(?)が描かれているのもよかった。そのファンタジーが失われていくことにも触れられている。
全22巻で第一部が完結し、いまは第二部が新たに始まっている。
題のファブルはfableつまりおとぎ話のように現実離れしていることを意味している。英語の発音だとフェイブルになるはずなのだけど英語じゃないんだろうか。あと組織がファブルなのか主人公がファブルなのかあいまいな感じがした。
青年マンガらしくシモの描写が一部あるので注意。ただしまったくエロくはない。ヒロインがチンコしゃぶらされるシーン(!)はあるけど。
やくざの社会が舞台なので読む人を選ぶのかもしれないけれど、人のナマの欲望がよく現れるところなので嫌じゃなければ見てみるといいと思う。
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