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九条の大罪 5巻まで
弁護士の九条間人は父親も兄も法曹関係の仕事をしている育ちのいい人間だったが、妻と離婚し娘の養育費を払いながらビルの屋上でテント生活をし、己の信念のもとでどんな客でも同じ着手金で仕事を引き受けていた。「闇金ウシジマくん」の作者が描く、人生を踏み外した人たちの物語。青年マンガ。

「闇金ウシジマくん」がすごくおもしろかったので、作者の真鍋昌平の次の作品はいずれ必ず読むつもりではいたのだけど、例によって日本テレビ「川島・山内のまんが沼」で紹介されていたのが直接的なきっかけとなって読んでみた。確かにおもしろかったけれど色々と気になる点があった。

最初の話は主人公のおっさん弁護士九条が半グレの起こした酔っ払い運転のひき逃げ事件を弁護する内容となっている。要するにクズを助けて善人(?)が割を食う話。この手の話は、上戸彩主演でドラマ化された中嶋博行「ホカベン」でも見たのでそんなに目新しさは感じなかった。

読んでいて一つ一つのエピソードがちゃんと終わった感じがしなかった。え?これで終わり?とページをさかのぼってみたことが何度もあった。

物語が描かれていないと感じた。介護の話で依頼人の女が献身的だったという事実が放り込まれたけれど、だから何?って思った。かつて世話になっていた恩師を訴える話でも、そいつを訴えた意味とかそいつの生き様や結末までは描かれなかった。良く言えば、ただただリアルな話だった。

題を「九条の大罪」にした理由も見えてこなかった。憲法第九条に掛けているとしたら、戦わなくなった日本人というテーマがありそうだ。腕のいい弁護士に頼らなかった人が本来もらえたであろうお金を受け取れなかったというチョイ話が出てくるのは、ただの善人であるだけではダメなんだ、ちゃんと戦おう、というメッセージがあるようにとれる。

半グレのリーダー壬生のことがやたら前面的に描かれているのが気になる。こいつはやくざとつるんで人殺しもしている明らかな悪人なのだけど、こいつのことは終始好意的に描かれているように思う。袖口から入れ墨の見える隆々とした肉体が、妙にかっこつけたポーズで無言のまま読者さえ威圧するかのようにたたずみ、彼の生きざまを見せつけてくる。

ちょっと深読みしすぎかもしれないけれど、世の中には善悪なんてないんだ、戦う人間こそ美しいんだ、とでも言いたいように感じる。法律というのは現代社会で人と人とが合法的に戦える数少ない場なのだから。

狂信的なフェミニスト(?)の女弁護士が出てくる。こいつが自分の正義で突き進んだ結果、一人のセクシー女優が職を失って破滅し、依頼人である両親に小銭がもたらされる。これはこれで両親が小銭を得るための戦いではあったのだけど、娘の気持ちが置き去りになっている。その後九条は彼女の依頼で彼女のために戦う。

イソ弁(居候弁護士つまり独立せず個人の弁護士事務所に居候している弁護士)の烏丸弁護士の存在が終始意味不明だった。こいつは東大を首席で卒業し大手法律事務所での勤務経験もあるエリートなのだけど、なぜ九条のもとにいるのか。ただ九条先生が面白いからと言っている。

まだ5巻までしか出ていないので物語が動くには早いのかもしれない。いまのところこの作品は、主人公が弁護士になっていくぶん読みやすくなった「闇金ウシジマくん」といった程度なので、まだこの作品を読んでいない人はしばらく様子を見てもいいと思う。
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