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ゴブリンスレイヤー コミカライズ版 12巻まで
冒険者のランクで上から三番目の銀級なのに弱いモンスターであるゴブリン退治ばかりやっている男がいた。ドラゴン退治を夢見る多くの冒険者とは違い、ゴブリンこそが人間にとってもっとも害をなし根絶すべき存在であるとの信念に従い行動する彼のことを、人々は侮蔑を込めてゴブリンスレイヤーと呼んでいた。ダークファンタジー小説が原作のマンガ。

いつだったかアニメ化されたのを見て、露骨なエログロ描写が刺激的だったこともあって最初は興奮して見ていたのだけど、主人公に対するコミュ障いじり(?)が型にハマりすぎていて、大した人物描写が見込めなさそうだと思ったので見るのをやめてしまった。アニメ独特のいやらしい演出のせいなのかなと思ってこのコミカライズ版を読んでみたところ、そこはアニメとそう変わらなかったけれどメディアの特性なのかそんなに押しつけがましくなく、読み進めていくうちにパーティメンバーに愛着が持ててきた。

まず、調子に乗った初心者パーティがゴブリン退治のために巣穴に入るところから始まる。ゴブリンを弱い魔物だと侮っていたパーティは、ゴブリンの浅知恵に翻弄され、己の無知により墓穴を掘り、無残にも殺され、犯されてしまう(!)。

比較的最近アメリカの議員がこの作品を有害図書だから学校に置くなと言ったことがニュースになっていたのだけど(学校に置いてるんかい!)、その理由はたぶん若い女性がゴブリンにレイプされるシーン(!)が何度か出てくるからだろう。

それをもって版元はこの作品のことをダークファンタジーと言っているのだと思うけど、それはちょっと違うと思う。ダークファンタジーの定義がなんなのか正確には知らないけれど、この作品は主人公とか世界観が悪に染まっているわけではなくて、ゴブリンが悪行を働くだけで冒険者や街の人々はおおむね善良だった(ズルいやつは出てくるけど)。あえていうならハードボイルドファンタジーだと思う。

たまたま居合わせた主人公ゴブリンスレイヤーによって助けられた若い女神官は、仲間の死にもめげずに気丈にもゴブリンスレイヤーに同行して一緒にゴブリン退治を行うようになる。健気でかわいい。

エニックス「ドラゴンクエスト」シリーズのようないわゆるJRPGに影響を受けた作品だとスライムが最弱のモンスターであることが多いけど(たしかドラクエにはゴブリンは出てこなかったはず)、RPGの元祖であるダンジョンズ・アンド・ドラゴンズやその派生から影響を受けた作品だと大体ゴブリンが一番弱いモンスターになっている(まあ転スラこと伏瀬「転生したらスライムだった件」は両方取り入れられているけど)。

そんなゴブリンをなぜ主人公が脅威に思っているのかというと、狡猾で侮れない知性を持っていること、繁殖力があって放っておくとどんどん増えていくこと、そして積極的に人間を襲ってくることだろうか。普通のモンスターは縄張りさえ侵さなければ襲ってくることはあまりないのに対して、ゴブリンは人間の特に家畜を狙っている。それなのにゴブリンは弱いとされ退治してもあまり報酬がもらえないため、普通の冒険者は少し強くなるとゴブリン退治の依頼を受けなくなってしまう。

主人公の装備が渋い。ゴブリンは狭いほら穴に住んでいることが多いので、狭い場所でも振り回せるよう小ぶりの剣を予備も含めて何本か持っていっている。また、毒に備えての毒消しポーション、石投げ用のスリング、なんでも応用の効くロープや松明(壊れやすいランタンではなく)、そしていざというときの魔法のスクロール。いわゆるテーブルトークRPGが好きだった人にはたまらないと思う。

そのうち仲間としてエルフの弓使い、ドワーフの精霊使い、トカゲの神官なんかが加わる。エルフとドワーフの仲が悪いとか、トカゲの神官の異国情緒ある振る舞いとか、すごい王道な感じがする。だから最初自分はテンプレすぎてつまらないと思っていたのだけど、だんだん彼らの中に個性が見えてきて好きになってきた。

とここまで登場人物を職業でしか説明していないのは、いちいち名前を紹介してもしょうがないからではなくて、なんとこの作品にはキャラの名前が出てこない。Wikipediaを見て初めて気づいた。テーブルトークRPGのキャラだから読者が好きに名前を考えてくれればよいとのことらしい。

っていうかこの作品はそもそも最初匿名掲示板でアスキーアート込みで書かれていたらしい。2ちゃんねるもとい5ちゃんねるにはそういう文化があって、スレ主が唐突に物語を語り始めて、それに対して読者が茶々を入れたり応援したりしながら話が進んでいく。そう言われてみるとこの作品はそんな感じで作られた気がしてくる。で途中から普通の小説として書くことにしたらしいけど、そのあいだも掲示板での連載は続いていて、読者の反応によって小説とズレたところも最終的には小説版に取り入れられたとのこと。

それを知ってすべて分かってしまったのでもうあまり批評する気はないのだけど、やっぱり描写が薄くなっているのはしょうがないのかなと思った。セリフには熱量があることもあるのだけど、地の文が淡々としてしまう。読者はその両方を読んで、登場人物の想いを想像する。だからたとえばなぜ女神官がゴブリンスレイヤーとともに戦い続けるのか、はっきりと心情が描かれていないのでよくわからなかった。そこがいいところでもあるのだけど。

ストーリー展開はゴブリンを退治するだけ。ゴブリンの聖騎士に率いられた一団の本拠地に潜入して駆除するとか、街の地下に巣くうゴブリンたちが大々的に地上に出てくる前に叩くとか、いろんなミッションが出てきてそれはそれで楽しいのだけど、お姫様を救うだとかドラゴンを退治するとかいった華やかな冒険はまったくないし、パーティメンバーの女性をめぐって恋のさや当てだとか若者の自己実現だとか自らのルーツ探しとかいった話もない。

あ、でもゴブリンスレイヤーをめぐって複数の女性が取り合いをするのはある。こいつはほんと無口で、必要なこと以外は「そうか」「そうなのか?」「ああ」「いや」ぐらいしか言わない。でもパーティメンバーの影響なのかちょっとずつ変わっていっている。これといった展開はないんだけど。

この作品はそういうのが好きな人だけ読めばいいんだろうけど、この作品を入口にしてこういう渋いファンタジーが好きな人がもっと増えればいいなあとは思う。エログロ目当てでもいいから興味を惹かれたら試しに読んでみるといいと思う。
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