ボーリング・フォー・コロンバイン |
アメリカのコロンバイン高校で起きた銃乱射事件を足がかりに、アメリカが病んでいる理由について、色んな人たちへのインタビューを中心に、フィールドワーク的に突き詰めていくドキュメンタリー映画。
私が監督のマイケル・ムーアを知ったのは、バカでマヌケなアメリカ白人、だったかという著作を読んだときだった。この本は、世界でもっとも豊かな国アメリカに住むもっとも優位な立場にある白人が実はとても頭が悪いということを色んな具体的な証拠をかき集めて証明したものだった。
その監督の出世作がこのボーリング・フォー・コロンバインだ。題名を聞いたとき私は、アメリカの銃社会を批判する社会派の作品なんだと思った。それ以上でもそれ以下でもなく、それだけを扱った彼の出世作ということでしかないのかと思っていた。しかし実際に見てみるとそれは彼の原点となっていることが分かった。この作品から既に、バカでマヌケなアメリカ白人や、ブッシュを批判して有名になった華氏911へと、枝分かれする芽が出ているのだ。
なぜ事件がコロンバインで起きたのか。世界最大の企業ゼネラル・モータースが見捨てた町。世界最大の兵器会社ロッキードの町。貧富の差がどんどん開いていくアメリカ。貧しいために遠くの町まで行って金持ちのためにカクテルを作って生計を立てていた母親。事件は偶然ではなくて必然なのだと。
アメリカと比較する上で、日本への言及もあったのが面白かった。ふつうこういう海外の作品だとヨーロッパぐらいしか相手にしてくれないのが常だから、これはなかなか意外である。あのなりだがマイケル・ムーアは若い世代に属するからかもしれない。ただ、その内容はといえば、暴力的なゲームのほとんどは日本製だ、とかそんなものだった。カナダはアメリカの影響を強く受けているが、なぜアメリカほど銃による死者が少ないのか。ハリウッドの血なまぐさい映画だってカナダで上映されている。とまあそんな文脈で語られていた。
そこで核心を突く主張をするのにアニメが使われている。アメリカンなシンプソンズ風のアニメだ。ただし内容は非常にダークだ。アメリカは、イギリスの影におびえた清教徒たちが作った国だ、ということから始まる。彼らは怯えて、現地人つまりインディアンを殺戮した。アフリカから奴隷として黒人を連れてきたが、黒人たちの反乱を恐れて白人たちは銃で武装するようになった。とまあ簡単に言うとそんな流れだった。アメリカはまだその影から抜け出せていないという。暴力の国、アメリカが世界を不安定にしている、ということも言っている。
なぜこの作品にボーリングが冠されているのかというと、コロンバイン高校の犯人二人が犯行に及ぶ前にボーリングをしていたというのに、誰もボーリングのせいだとは考えない、という人々の意識についての問題意識をかきたてるためのようだ。
マイケル・ムーアの姿勢は、往時の電波少年を思わせるアポ無し取材らしい。全米ライフル協会の会長や銃弾を売っていたKマートの社長に会うために乗り込むところまで映像に納められている。たぶんこれは面白いことなのだろうが、電波少年で見慣れていたせいかあまりすごいとは思わなかった。だが、生々しいインタビューは、よくぞ映画にできたと感心する。日本だと放映できなかったんじゃないかと思うほどだ。犯人に悪影響を与えたとされたアナーキーなロック歌手マリリン・マンソンが、普段のライブのメイクのまま大まじめにアメリカの実態について語っていたところもぐっときた。
一方で、コロンバイン高校の事件の犠牲者である学生二人をダシに、Kマートに乗り込むシーンは、マスコミ人としてのあざとさを感じた。あの毒のあるマイケル・ムーアが、いい人であるかのように振舞っているのは、違和感があった。もちろん悪い意味ではない。よくやるよこの人は、と思ったのだ。
この映画の評価は、アメリカの実態についての知識があるかどうかによって変わるだろう。知らないのだったら、結構ショックを受けると思う。世の中について考えるきっかけとなってくれるだろう。多少なりとも知っていたら、まあそれほど衝撃は受けないだろうから、映像のまとめかたについて評価することになるだろう。そのときは、監督が分かりやすい映画を作ってメジャーな場所へ運んだという事実も考慮に入れて欲しい。
普通にいい作品だと思う。いろんな人に薦めて歩きたいほどの作品ではないが、時間があったら見てもらいたい作品である。
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