てのひら開拓村で異世界建国記 ~増えてく嫁たちとのんびり無人島ライフ~ 6巻まで |
農場を経営する箱庭ゲームが大好きで、生まれつき病弱なせいでずっと入院したまま二十歳を前に亡くなった青年が、ファンタジー風の異世界に転生してカイ少年となった。ひそかに神から祝福を受け、まるでゲームのような自分だけの箱庭の世界を手に入れた彼だったが、胸に浮かんだ神の印により邪神の祝福を受けたとみなされ、家族と引き離れて無人島へ置き去りにされる。異世界転生ファンタジー小説が原作のマンガ。
「てのひら開拓村」という響きが自分にとってはキラーワードすぎたので読んでみた。とてもおもしろかった。
カイ少年の持つ異空間へは、呪文というか合言葉を唱えれば好きな時に行くことができる。そこには柵に囲まれた文字通り「てのひら」のように狭い土地があって、そこで畑を耕したり家を建てたりできる。立て札に書いてあった目標「初めての収穫」を達成したところ、謎の少女エネルがやってきて色々とサポートしてくれるようになる。彼女の助言により現実世界から様々なものを運び入れると、技術レベルが上がり村ができて大きくなっていく。
ところが彼が11歳になり洗礼を受けようと大都市の教会へ連れていかれると、胸に浮かんでいた印を見た審問官から邪神の祝福を受けた子だと言われ、家族と引き離されて無人島へ置き去りにされる。その島には凶暴な猛獣が生息し、本来であれば死を待つばかりだったが、彼には神から授かった「てのひら開拓村」があった。
といってもこの能力には制限があって一日のうち三時間しか滞在することができない。なので「てのひら開拓村」にあるものを使って無人島でなんとか生き延びようとする。どうやって猛獣に対処するか考えたものの、ろくな武器もないし子供なのでどうにもならない。そこへ謎の少女アビスがやってきて島の安全地帯へと導いてくれる。ところが彼女はすぐに彼のもとを去り、なぜか彼を一歩引いて見守るようになる。
なんかこの作品の設定を説明しようとしてみて初めて気が付いたけれど、結構複雑な構造をしていて説明しづらい。「てのひら開拓村」は彼の持つ異空間のことを指しているのだけど、それとは別に無人島にも村を作ることになる。あと、サブタイトルにあるようにこれからどんどんヒロインが出てくるのだけど、みんな出自が特殊で訳が分からなくなる。
「てのひら開拓村」の発展をサポートしてくれる少女エネルは、彼女に言わせるとカイ少年自身から生まれた存在であり、彼のことをお父さんと呼んでいる。彼女は頼りになる存在ではあるけれど、とても子供っぽい妖精のようななりをしている。こいつは正ヒロインではない。ちなみにあとでこいつの妹も出てくる。
無人島にいた謎の少女アビスは実は人造人間で、昔の魔女が自分の姿を模して作ったレプリカなのだという。とても寂しがりやで、生身の肉体を持たないけれど身体は暖かいので、こごえるカイ少年に寄り添うのだった。強力な魔法を使えて身体能力も高いけれど、「魔素」で動いているせいか「魔素」が存在しない「てのひら開拓村」には基本的に入れない。たぶんこいつがメインヒロイン。
まるで鳥山明「ドラゴンボール」に出てくる栽培マンのように土地に植えた特殊なタネから小人の戦士が生えてきてカイ少年を守ってくれるようになるのだけど、村のレベルアップ特典によりキツネの耳としっぽを持った自称「獄炎の大魔導士」少女レンが生えてくる。忠誠心が高く、和装をしているのにカイ少年のことをなぜか「マイロード」と呼ぶ。手をキツネの形にして炎を吐く。
カイ少年が置き去りにされたちょうど一年後に、同じく「邪神」の祝福を受けたツインテールで垂れ目の少女カエデが島に置き去りにされるので連れて帰る。こいつは人形なんかにかりそめの命を吹き込むことが出来る能力を与えられている。年相応に幼い少女であり、両親のもとに帰りたいと思っているので彼女の故郷を探すことになる。
私掠商人のもとから助け出した奴隷の女魔術師サラと、彼女がその身を引き換えにしてでも救い出したいと思っていた亡国の王女ユーリセシル、教会から騙され搾取される有翼人たちの中の少女リーベル、と「嫁」は増えていく。もっともカイ少年にはまだまだ彼女たちとの関係を進める気はないのだった。
この作品のなにがおもしろいかって、次々と起こる危機にどう対処していくのか目が離せない。ウリである「てのひら開拓村」以前にストーリーがおもしろい。無人島でどうやって生き延びるか、島を脱出するにはどうしたらいいか、街に行ったらなにをすればいいのか、とその時々で新たな目的が生まれ、実現していく。
その合間に「てのひら開拓村」が発展していくのだけど、割とどうでもいい感じ。陶器を焼くときなんか「てのひら開拓村」でやるか無人島のほうでやるか少し迷って、結局時間の流れが早いという理由だけで「てのひら開拓村」でやることになる。もっとゲーム性があればおもしろかったかも。
「てのひら開拓村」はあくまでカイ少年のプライベート空間であり、一応ゲストとして何人か外から人を招き入れることが出来るという設定になっている。また、カイ少年が死ぬと消失してしまう。中に住んでいる村人もろとも。まあそもそも中の村人はカイ少年のことが見えない設定になっているので完全にNPCみたいな存在になっている。エネルやレンはどうなるんだろう。
亡国の王女ユーリセシルや有翼人たちを受け入れたことにより、無人島(もう無人じゃないけど)の方がメインとなっていく。カイ少年が人と関わっていくことによって大人になっていくんだな、的なことなのかもしれないけれど、大人らしいトラブルは特に起きなくて、普通にカイ少年を王とする国が発展していきそう。
カイ少年自身はまったく強くない。レベルアップとかスキルゲットとかそういう要素は一切ない。でも小人の戦士だけでなく魔術師など色んな兵士が生まれるので戦闘力は上がっていく。自分たちの国を守るために軍事力を持とうみたいな話にもなる。帝国や教会勢力の脅威があるから。無双する作品と違って緊張感があるのがいい。
カイ少年は家族と離れ離れになったけれどそこまで家族に執着していないようだった。妹のことを思い出して気に掛けるシーンがあるのだけど、逢いたいとか一緒に暮らしたいといった気持ちはそんなになさそう。というかこいつ自身が自分のことをそこまで顧みていなくて、誰かのためになにかをしたいという気持ちで動いている。こいつ自身の成長物語があまりないのはちょっと物足りないかもしれない。
絵がかわいい。すっとぼけた天然少女のエネル、奥ゆかしいけれど同時に激情も宿すアビス、自信に満ちたお笑いキャラであるレン、両親のことがとにかく恋しいカエデ、自分の身を顧みない一途さと不安な気持ちも抱えるサラ、王女としての気品を持ちつつ悔恨を噛み締めるユーリセシル、無垢な少女ではいられなくなったリーベル、とみんなそれぞれ表情と振る舞いが印象的で愛着を持った。
というわけで、箱庭ものが好きかどうかに関わらず、冒険主体の異世界ハーレムもの(?)が好きな人なら楽しめると思うので読んでみてほしい。
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