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嘘喰い
若き天才ギャンブラー斑目貘は、裏社会で賭け事を取り仕切っている組織「賭郎」に対して「屋形越え」なる大勝負を仕掛けて敗れていたが、多重債務に苦しむ梶隆臣という世間知らずな若者と出会い、そいつとともに再び大勝負に挑む。青年マンガ。

マンガの名シーンについて語り合うスレッドのまとめ記事を読んでいたら、自分がいままで見たことも聞いたこともなかったこの作品について触れていた人がいたので気になって読んでみた。すごくおもしろいところもあったけれど、基本的にはわけのわからない作品(!)だった。

まずは軽く(?)裏カジノでのルーレットから始まる。相方の梶隆臣は無知なのでイカサマに気づかず負け続けるんだけど、斑目貘はディーラーの心理を巧みに読んで誘導し、ルーレットの掛け方のしくみを利用してうまいこと勝つ。

ここから二人は不動産王だという老人の目に留まる。彼の所有する古いビルに招待され、このビルを無事脱出したら一千万円あげると言われる。始まったのはデスゲームだった。脱出をただ妨害されるだけじゃなくて、老人に雇われている傭兵たちが普通に襲ってくる。

ここで倶楽部「賭郎」という闇の組織が出てくる。この時点では主人公の斑目貘の素性は明かされておらず、老人が「賭郎」の会員であることがわかり、このデスゲームの立会いをさせることになる。戦国時代から続く歴史的な組織だという。

なぜこの組織が賭け事の立会いをするのか?ギャンブルってのはお金を掛けて勝負するわけだけど、負けた側が払わないと言い出したらどうなるか?そもそも日本では賭け事は禁止されているので、法律によって取りたてることはできないし、警察も賭け事をさせない方向でしか介入してこない。だから掛け金は最終的には私的な「暴力」で取りたてるしかない。

そういうこともあって賭場は暴力団が取り仕切ることが多いわけだけど、「賭郎」はそんな賭け事に特化した暴力組織だった。この組織の立会いにより、老人が約束を破ろうとしても阻止できる。斑目貘はギャンブルの天才というだけで腕っぷしはからっきしだから。

とはいえ廃ビルの中では傭兵が襲ってくるので知恵を巡らせて戦うことになる。「賭郎」は双方にルールを守らせることしかしないので、双方が合意していれば暴力もイカサマも放置する。イカサマも放置するのは不思議かもしれないけど、そもそも公正なルールなんて存在しないし(!)、イカサマも含めて相手と勝負するのが双方の目的だから。イカサマは見抜くと逆に利用できるし、自分が別のイカサマをして相手を出し抜くこともできる。

こういう盤外戦もあるところは衣笠彰梧「ようこそ実力至上主義の教室へ」を思い出したけど、この「嘘喰い」のほうが発表時期が十年も早い。同じヤングジャンプでほぼ同じ時期に連載されていた甲斐谷忍「LIAR GAME」がドラマ化の大ヒットから時を置いて最近改めてアニメ化されていて、やはりギャンブルでイカサマあり(?)のルールでやっているけれど、暴力の要素は少しだけだった。やはり暴力はこの世の中を描き出すための重要な要素だと思う。ちなみにヤングジャンプはこの時期に福本伸行「賭博黙示録カイジ」もあるのがすごい。

さすがにちょっと「廃ビル脱出ゲーム」は暴力に特化しすぎているんだけど、この作品に出てくる数々のゲームはそこまで暴力の要素のないものが多く、ちゃんと高度な頭脳戦が楽しめるようになっている。暴力は頭脳戦を構成する意外性のある一要素として効果的に使われている。

一番読者に人気なのは「エア・ポーカー」みたいなんだけど、それを知ってから読んだせいか期待しすぎてしまった。あっと驚く盤外の仕掛けがあるんだけど、そのせいで逆に勝負の妙味が薄れてしまったように思った。それに、班目獏がそこまでして相手を徹底的に叩きのめしたかったのか理解できなかった。

自分が一番いいと思ったのは、リアルMMORPG編で奴隷に甘んじていたプレイヤーたちに火をつけた「あっち向いてホイ!」だった。一見単純なルールから読み合いが始まり、勝ちパターンを構築しようと必死に頭を巡らせたプレイヤーたちが最後全部持っていかれるシーンが最高だった。この編は自分に言い訳して生きてきた男が自省する話としてもすごくよかった。

何を掛けさせられているのかわからないまま勝負が始まることもあって、それが明らかになったときはちょっと感動した。こんな一方的なゲームは本来成立しないんだけど、ゲームの成立すら暴力それも単純な脅しではなく途方もないスケールで相手を飲み込もうとする筋書きに震えた。

この作品では主に天才ギャンブラーの斑目貘が活躍するのだけど、それだけではおもしろくないと思ったのか、ほぼ素人の梶隆臣が戦うゲームがいくつかあって、こいつは班目獏と違って負けて死ぬんじゃないかという不安定感があってドキドキした。

梶隆臣は世間知らずな学生なんだけど、斑目貘から少しずついろんなことを教わり、自分でも勝てるんじゃないかと思うようになる。だから当然痛い目を見るんだけど(笑)、それでも一生懸命考えて勝機をたぐりよせる。すっとぼけた天才斑目貘と違ってそのあたりの心理描写がとても活き活きとしていてよかった。

ただ、基本的にこの作品は人間描写が雑だと思う。

自分が最初に違和感を持ったのは、前述の「廃ビル脱出ゲーム」ですごく腕っぷしの強い男を味方に引き入れたときだった。こんなことで仲間になるの?斑目貘はキャラ的にそこまで人のふところに飛び込むようなタイプじゃないと思ったのに。

斑目貘自身については、わざと描写を少なめにしてミステリアスに演出しているんだろうなと思ってしばらくは気にならなかったんだけど、話が進むにつれて一体こいつは何がしたいんだろうと思うようになった。まあ多分自分のすべてを掛けた勝負に狂うことが彼の生きざまなんだろうから、それならそれで別にいいやって感じではあるんだけど。

題の「嘘食い」は斑目貘の二つ名なんだけど、なぜ彼がそう呼ばれるようになったのかもよくわからなかった。彼の決め台詞が「あんた嘘つきだね」なんだけど、そこ重要か?相手の嘘を見破ることに特別なこだわりを持っているようにも見えなかった。

対戦相手がどういった背景を持っているのかについては割と描写があって良かったんだけど、彼らが敗北を突きつけられたときの描写があっさりしすぎているように感じた。特にその結末が死あるいはそれに近い形になる場合は。読者はそこにカタルシスを感じるだろうに。

自分にとって決定的だったのは、「賭郎」の立会人同士が序列を掛けて戦う「號奪戦」の存在だった。ただの審判である立会人がなぜと思うかもしれないけど、どれだけ組織が強大であっても結局のところ人が動くので、参加者にルールを守らせるには立会人がリーダーとなって部下を引き連れて場を支配する。参加者だけでなく時にはやくざや警察(!)といった他の暴力集団をも抑え込まなければない。

だからそれぞれクセのある立会人たちの間に能力の差があって序列があるのはとてもよくわかる話なのだけど、その序列を入れ替えるには「號奪戦」という殺し合いをしなければいけないのが意味不明すぎた。それも挑んだ方は十秒以内に相手を殺さなければならないというw

立会人ってのはその場にふさわしいゲームを即興で考えることもあり、ものすごく頭がいい人たちのはずなのに、みんな腕っぷしが強いのが意味わからんかった。最初の方に登場する車椅子に乗った小男の立会人ですら実は隠し持った武器で敵を暗殺することができる。

また、ヤンキー上がりの立会人なんて絶対に頭悪いはずなのに(!)こいつも頭がよかった。っていうかもう元ヤンとしての個性がリーゼントぐらいしかない。考え方とか嗜好とかにヤンキー臭さがあればよかったのに、ビジュアルをヤンキーにしたかっただけとしか思えなかった。

たぶんこの作品って、宮下あきら「魁!!男塾」みたいな荒唐無稽さを楽しむバトルものがベースなんだと思う。なまじ素晴らしい頭脳戦が描かれているだけにそっちがメインかと思いきや、バトルシーンがずっと続くこととかあってこっちが本当はメインなんじゃないかと思わなくもなかった。かと思ったら、さいとう・たかを「ゴルゴ13」のような国際問題に絡めたリアルな背景描写に引き込まれたりもした。

絵は魅力的だと思う。ちょっと劇画タッチのクセみたいなものがあって少し気持ち悪く感じたこともあったけど、賭けの舞台となる背景の描写から一癖も二癖もある登場人物の描写まで、どれも楽しめた。特にいろんなタイプの男性キャラはみんな独特の存在感があって素晴らしかった。女性キャラは非常に少なくて、特に正統派なヒロインはほぼ出てこないんだけど、彼女たちもよかった。テレビ番組のアシスタントの女に笑った。

いろんな意味ですごい作品だとは思うんだけど、いままで自分が知らなかったのにはそれなりの理由があるというか、少なくとも万人向けの作品ではなく、人間ドラマとしては本当につまらない話なので、このちょっと変わった味のする作品を楽しみたいと思う人は読んでみるといいと思う。
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