シュガシュガルーン 1〜3巻 |
魔界の次期女王を決めるため、魔界人気ナンバーワンの少女ショコラと、現女王の娘バニラが、人間界でハート集めの戦いをすることになった。安野モヨコが低年齢少女漫画雑誌なかよしに連載中の大人気魔法少女モノ漫画。
かねてから作者の安野モヨコは、自作品による全ジャンルでの成功を狙っていたらしいのだが、今作はいままで描いてこなかった低年齢層向けの作品を私たちの前に出してきた。私はそれを聞いて、どんな子供だましを描いているのかちょっと気になってはいたのだが、最初はなかなか手を出す気になれなかった。ところが単行本三巻出るか出ないかのうちに漫画賞を受賞し、アニメ化までされてしまった。
そこでさっそく一巻を買ってみたところ、あふれんばかりの魅力に圧倒されてしまった。なかよしは小学校低学年向けだったと思うのだが、この頃の少女向けにピンポイントで良いテーマを投げ込んでいる(と思う)。
主人公ショコラとバニラの性格付けが面白くて、ショコラは魔界ではナンバーワンだが気が強くて積極的、バニラは控えめでおとなしく魔界では目立たなかったが人間界ではモテまくり。これはつまり、人間界=思春期という明確なメタファーがある。ショコラはそんなモテまくるバニラを見て、思春期に目覚めていく…のだろう。バニラはバニラで自分が何故モテるのか分からない。
二人はハート集めで勝負するのだが、これが実によく出来ている。人間が自分に惚れると、その度合いに応じてオレンジからピンク、赤のハートを胸に宿すようになる。そのハートを魔法でピックアップ(取り上げる)すると、色によってポイントがたまる。ハートを取られた人間は、自分の想いがリセットされてしまい、なにごともなかったかのようになる。つまり、一つ一つのエピソードで強い恋愛のエピソードを描いても次回以降の展開に引きずらない。さらに理論上は、同じ登場人物を使って恋愛エピソードの再生産が可能になっている。人間は心のエネルギーが強いので、いくらハートをとってもどんどんハートを作ることが出来るからだ。それに対して、魔女は一つしかハートを持っていないので、誰かに惚れてハートを取られたら死んでしまう。そこがまた話の展開にスリルをもたらしている。連載を始める前にちゃんと設計したんだろうなぁ。あまりのうまさにちょっと感動してしまう。
おとなしいバニラが時には気を張って無理して強気に出たり、気の強いショコラが時に悲しい涙を流したりと、登場人物の魅力を十二分に描いているところもポイントが高い。
魔法の名前などがフランス語(?)なのもうまい演出だ。「制圧(サンクシオン)」とか「宮殿(パレ)」とあり、ちょっと陳腐になりがちな英語を避けている。こういうときフランス語はいいねえ。イタリア語でもスペイン語でもいいんだろうけど、魔法の国といえばまずフランス語なのだろう。
少女漫画だけに、出てくる少年や大人の男は大体美形。特に露骨な美形狙いのピエールとロッキンロビンは、私にはちょっとウザいくらいの造形美で描かれるが、記号だと思って流すことにする。
魔法少女モノにありがちなのが、おもちゃ会社とのタイアップで、本作でも魔界の通販で杖のオプションとして先端につける宝石や飾りのアクセサリなんかがあって、玩具に展開することを前提としているかのようだ。
魔界の食べ物のレシピとか、香りの成分を細かく描写してみせたりと、細かい気配りにあふれている。丁寧に作られた作品だという印象がある。
絵のタッチは相変わらずの安野モヨコスタイル。ちょっと目の大きさがおとなしくなってはいるが、一度見たことがあれば安野モヨコだと分かる特徴的なタッチだ。いまもだんだん洗練されてきているのか、それとも私が慣れてきただけなのかは分からないが、絵のタッチのクセで拒否反応を示す人は減ってきていると思う。
物語の展開は、しばらく安定したエピソードでつないでいくのかと思ったら、早くも二巻で急展開がある。
三巻目にして早くも名作の予感がする本作を、多くの人に薦めたい。
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