マリア様がみてる |
ミッション系女子高に通うお嬢さんたちの、女だけの独特の世界の中で繰り広げられる濃密な人間模様を描いた連続アニメ作品。同性愛描写もありそれが有名になっているが、原作は女性の作家が書いた少女小説シリーズで有名なコバルト文庫であり、女同士の深い深い友情を描いている。
感動した。とても感動した。私が今までに鑑賞したあらゆる芸術作品の中で一番かもしれない。人と人との関係ってこんなに素晴らしいものなのかということを改めて強く強く感じさせてくれた。
主人公は感情一杯なだけが取り柄のような高校一年の女の子・ユミ。文化祭のシーズン前に突如、あこがれの先輩・サチコの目に留まり、ちょっとしたきっかけからプチ・スール(先輩が後輩を一対一で指導する独自の制度上での妹)になってほしいと言われる。しかしサチコはユミを利用しようとしているだけのようにユミには思え、ユミはサチコにあこがれているにも関わらず納得できずに申し出を断ってしまう。これが導入部だ。最終的に二人はスールの関係を結ぶのだが、そこにいたるまでの事件や心の葛藤が豊かに描かれる。
この女子高には、生徒会のような仕組みとして山百合会というものがあり、薔薇様と呼ばれる三色の薔薇の名を冠する三人の役員が取り仕切っている。それが白薔薇(ロサ・ギガンティア)、黄薔薇(ロサ・フェティダ)、紅薔薇(ロサ・キネンシス)だ。彼女たちのプチ・スール(制度上の妹)は特別につぼみ(アン・ブートゥン)と呼ばれ、彼女たちの補佐をしている。ちょっと独特のフランス語の単語が一杯出てきて最初混乱することが多いらしいが、独特の世界観を演出していて良い。
この作品では、紅薔薇の姉妹であるユミとサチコのほかに白薔薇や黄薔薇の姉妹についても語られる。作品中で時が過ぎていくので、サチコの姉の世代やユミの後輩の世代も出てきて話を彩る。
中でも準主役級なのがロサ・ギガンティアこと佐藤聖(セイ)だ。序盤からユミに抱きついたりして同性愛っぽさ全快でからかう快活な様子が頻繁に出てくるが、第一期(全13話)の終盤で彼女の思い詰めた過去が描かれる。一人の少女を深く深く愛してしまい、抱き合ってキスをする描写まで出てくるが、最終的に別れが訪れてしまう。純粋な想いがぶつかりあう愛の描写はそれだけで背筋が続々するほど感動的だ。しかしこの作品は耽美なだけに留まらない。きちんと少女を正しい道へと導き、彼女たちを成長させていく。一つの対象にのめり込んでいてはもったいない、周りには素晴らしいものが満ち溢れているのだから、と諭す教職員のシスターの言葉が、ごく淡白に語られているだけなのに重く心に届く。
黄薔薇の姉妹は幼馴染で、一見するとボーイッシュなレイと病弱でおとなしいヨシノだが、実は性格は逆でレイが少女趣味でヨシノは強気。学園一絵になる姉妹だと思われていたが、おとなしいと思われていた妹のヨシノが姉のレイにロザリオを突き返してしまう(姉妹の関係を切ることを意味する)。レイは剣道部で見た目どおりの宝塚男役風のキャラで振舞ってはいるが、繊細な心を持っていてふさぎ込んでしまう。
白薔薇の姉妹の姉は前述の佐藤聖(セイ)だが、彼女にも妹のシマコがいて、かつての姉もいる。薔薇の姉妹はそれぞれが特徴的な関係を持っていて、それぞれうまくいくときもあればいかないときもあって、時々関係がおかしくなるのだが、それを乗り越えて彼女たちが成長していくさまが本当に見ていて気持ちいい。
登場人物すべてに大なり小なり愛着が持てる。中でも私のお気に入りは、当然の佐藤聖と、実は気が強いヨシノ(由乃)か。基本的に薔薇たちは全員魅力的なほか、脇役だけど新聞部の面々もいい感じ。
人の機知が非常に丁寧に描かれており、何度ため息をもらしたことか。私は人間関係に非常に淡白なので、余計にこの濃密な関係にひかれるのだろうか。というか現実にはこんなに濃い関係の世界に暮らしている人は現実にはあまりいないだろうし、濃くてもドロドロとしているか醜いものとなっているだろう。この作品にも嫉妬とか怒りとか情けなさなどの負の感情が描かれているが、どうしてこうも美しいのだろう。
声優の声はどれも素晴らしい。特に、主人公ユミ、佐藤聖、ヨシノ、シマコあたりは最高。本当は声優の名を一人一人挙げて讃えるべきなのだろうが、今の私にはそこまで追いかけるほど気が回らない。一応、今回一番気になった佐藤聖の役の豊口めぐみという人の名だけ挙げておこう。
絵は90年代の少女漫画に近い。最初、主人公ユミの目がちょっと大きすぎるように思い、いかにも少女漫画の主人公みたいな描かれ方をしていて不自然に感じたが、慣れるとそうでもない。登場人物たちは性格だけでなく絵づらもそれぞれ特徴的で魅力的だ。
音楽はクラシック中心でいい雰囲気が出ている。たまに出てくるアベマリア(バッハのとグノーのやつ)が効果的に使われている。オープニングとエンディングは創作クラシックっぽい日本人の曲が使われている。感じは出ているが、本作全体の完成度からすれば二流の出来なのが残念。
冷静にこの作品を見つめると、ちょっと変な閉鎖社会での行き過ぎた友情関係を描いた怪しい作品のように思わないこともないが、本当に素晴らしい作品なので多くの人に見て欲しい。この作品を見たあとはきっと自分の世界観が変わるはず。あるいは自分の世界を変えたくなるはずだ。
ところで、最近放映されたテレビ東京のテレビチャンピオンのアキバ王選手権で、重度のオタクの家にこの作品のDVDについてきたというポスターが一面に張られていて、残念ながら本作のイメージが一段と悪くなったと思う。オタキングこと岡田斗司夫が嬉々として「オタクは言葉を略すんです。一日一万回は言いますから」と「マリみて」という略称について語っていて、本人に悪気はないどころか自分の領域を誇らしく思っていたかもしれないのだが、確実に一般視聴者層にマイナスイメージを抱かせるような行為は謹んで欲しい。
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