華胥の幽夢 (十二国記) |
古代中国をベースにした独自の世界を舞台に描かれた人気ファンタジー小説シリーズの短編集。
五つの短編が収録されている。そのうち四つはこれまでの長編の余話で、題に取られている「華胥」だけ独立した作品となっている。
正直どれもあまり面白くなかった。
まず「冬栄」は、『風の海 迷宮の岸』と『黄昏の岸 曉の天(そら)』の間に泰麒が別の国を訪ね、その国での出会いが泰麒を少し成長させるという話。恐らく作者は泰麒の悩みを描くことで次の作品への伏線としたかったのだろうが、この作品自体をまず独立した短編として成立させることをもっと考えるべきだと思った。
「乗月」は、『風の万里 黎明の空』で暴君を討って国を救った月渓の心の葛藤を描いた作品。これは三国志風の人情話だと思う。こういうのが好きな人には嬉しい作品かもしれないが、やや好みな私ですらちょっと微妙に感じたので、よほど好きな人でないとこの作品を楽しめないと思う。
「書簡」は、『風の万里 黎明の空』のあとの陽子と主に楽俊のエピソードを描いたもの。シリーズを読んでいる人は素直に無難に楽しめる作品となっているが、独立した短編として見ると特にこれといった要素がない。
「帰山」は、前半が大国の王族同士の対話で、後半が王族一家の雑談となっている。前半は現在までの世界の状況を説明しただけで、後半は恐らく次の長編につなげるための家族解説のつもりで書いたのだろう。やはり独立した短編として成り立っていない上に、総集編+予告編といった感じでファンをじらせるだけ。
「華胥」は唯一独立した短編として読めるのだが、これまた正直あまり面白くない作品だった。華胥華朶という秘法を鍵としたミステリーなのかと思いきや、最後は結局無責任野党の問題で片付けてしまう中途半端さに脱力した。
ファンにとっては必要な一冊だが、それほどでもない人は読まないでよい作品だと思う。
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