週刊文春 2006.8.31号での連載入れ替え |
出版社系の一般週刊誌として独特の存在感と手広い人気を持つ週刊文春が、2006.8.31号で名物連載から短期連載まで6つをやめて新たに4つの連載を開始した。
そろそろ三ヶ月が経ったことなので、同誌のファンである私が一つ一つについて批評する。
まず高島俊男「お言葉ですが…」がなくなったのが痛い。他誌と比較しての位置づけからすると、おやじ好みの日本語小話といった守備範囲にあたるのだろう。しかしそこは週刊文春、高島俊男という中国語教師が、漢語に遡る起源だけでなく、現在の中国語がどうなっているかというところまで縦横無尽に語り、読み物として長いこと続いていた。辞書のおかしな記述や大学教授をめっためたに批判する一方で、読者からの手紙に謙虚に受け答えするところがとてもよかった。残念。最後に連載が始まった経緯の説明があって興味深かった。あっさり始まってあっさり終わるものだなと思った。
山本一力「にこにこ貧乏」は、何かの文学賞をとったこの作家が始めてそれなりに続いていた連載だった。地方の真面目な青年が東京に出てきて苦労したときの話と、力強い奥さんやちゃっかりした子供たちの話が中心だった。正直私とはあまり相性の良くない人で、何か面白いことが書いてあるかどうか一応読みはするのだが、読み飛ばす一歩手前ぐらいだった。人情をことさら強調するところが気に入らなかったのだと思う。ただ、旅行代理店に勤めていたときの話とか、興味深い内容も見られた。この人の誠実なところは好き。
義家弘介「ヤンキー母港で吠える」は、この人の考え方や経験は面白いのだけど、表現の技術がついてこずに思いが先行しているところが気になって気になって仕方がなかった。それに、戸塚ヨットスクールの人に噛み付いていたときは、この人の幼児性を見たような思いがした。この連載は価値があったと思うが、ちょっと長く続けすぎたのだと思う。
しりあがり寿「聖主婦ハルコ」は、人気マンガ家による時事風刺な4コママンガで、最初イヤな感じの作品だなと思っていたが、だんだん自分が慣らされてきて面白くなってきた。投げやりでナンセンスっぽい中に、登場人物の一生懸命さがあるところが良いのだと思う。
宮崎哲弥「ミヤザキ学習帳」は、毎回一つのテーマに対して作者が何冊かの本をごく短く取り上げ、作者が見通した独自の縦軸横軸の中に配置していく。スペースが半ページと小さいため、私はこれを読んで本を手に取る気にはなれなかった。この企画で半ページは狭すぎる。作者がバッサリとラベリングしているだけ。
毎回各界の著名人の一週間を1ページでまとめる「この人の一週間」は、様々な人がどんな一週間を過ごしているのかということが分かる興味深い内容であるはずなのだが、私は途中から読む気が失せた。どうしても駆け足な内容になり、出来事の羅列になり、読んでいて全然面白くなかったからだ。
さて続いては新しく始まった連載について書く。
安野モヨコ「くいいじ」は、人気女性マンガ家の作者が題の通り食べ物について書くもの。いきなり2ページなので大物扱いなのだろうか。内容はほんと食べ物中心で、私からすれば面白くもなんともない。作者は全ジャンルの雑誌を制覇することを目標としていると公言しており、これで一般週刊誌にも進出したわけだが、その内容が女性誌と変わらないのは作者のポリシーからしてどうなのだろう。もっと食べ物から展開してくれるといいのに。ところで、子供の頃に禁じられていたファーストフードを食べたくてしょうがなかったというところには共感した。
劇団ひとり「そのノブは心の扉」の開始は、作者の小説が何かの文学賞をとったということとつながりがあると思うのだが、こちらは小説ではなくエッセイ。初回、加藤茶のギャグでもある「うんこちんちん」が出てきたときは先行きを危ぶんだが、石に名前をつけて話しかけていたエピソードとか、知床旅情のメロディが聞ける道路を走るためだけに北海道に旅行に行ったはいいが気力が失せたり取り戻したりする話あたりから面白くなってきた。
宮崎哲弥「仏頂面日記」、テレビに露出していたり、色々な人脈を持っていたりするそうだが、この人の身の回りを知りたいと思う人が果たしてどれだけいるのだろうか。私はこの人の知識をまとめた文章なら読みたいのだけど、こんな形になっているのはとても残念。はしゃいでいる様子だけが伝わってきて、そろそろ読み飛ばすようにしようかと思っているところ。
大宮エリー「生きるコント」新連載のなかでこれが一番か。初回が一番面白くて徐々に落ちていっている気がするところが不安な点だが、毎回割合安定したレベルで面白い。初回はリオのカーニバルで現地人にまじれば安全だと思ってビキニで出かけたら夜中は現地人も普通の服を着ていて一人浮いていたというとっぴな体験が語られる。あと主要なのはオカンネタで、ネコのマネをしだすオカンの様子は不気味ながらも面白かった。この人は若手映画監督とのこと。イラストのカンバラクニエという人の絵もいい。
部数の出ている総合的な週刊誌としては、まず連載のバランスを考えなければならないのは仕方がないところなので、そんなに私好みの記事ばかりになるなんてことは期待しないのだけど、高島俊男の連載がなくなったこと、日記系の記事が相変わらずあることには苦言を呈したい。しかしながら、劇団ひとりや大宮エリーのような人を起用したことは嬉しい。安野モヨコや宮崎哲弥は作家としては好きなのだが連載の方向性が気に入らないので違う趣旨でやりなおしてほしい。
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