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世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
閉塞感の漂う異世界の街に住むことになった主人公の物語「世界の終わり」と、暗号を扱う専門家の物語「ハードボイルドワンダーランド」が、平行して描かれるうちにつながりが示される、多分SF小説。作者は現在もっとも世界的に読まれている日本人作家といわれる村上春樹。

もう十年以上も前に友人から村上春樹の本を十冊ほど借りっぱなしになっていて、最近になって思い出して一つ手に取ってみた。実は十年前に本作を読んでみたのだが、主人公が長い廊下を延々と歩きながら内省的な思索をめぐらすあたりで投げ出した。

さすがに古い。もう二十年近く前の作品だ。携帯電話が出てこないのは当然として、カーステレオもテープだし、アナログレコードも確か出てきた。出てくるミュージシャンの名前もみんな古い。

本作はSFだ。まあ友人のSF好きが十冊の中から特にこれが面白いと言っていただけあって、読んで納得した。「世界の終わり」は一見普通の世界だが、主人公は理不尽な決まりに従って一つの役割を与えられ日々こなしていく。ちょっとファンタジーの香りもする。「ハードボイルド・ワンダーランド」のほうは、計算士と記号士というまるでハッカー対クラッカーみたいな勢力の争いがあって、そこに主人公が巻き込まれることになるので、ミステリーみたいな感じ。でも謎自体はSFだ。こんなにSFの要素が多いと、特に女性はついていけないんじゃないだろうか。

その割に本作には女性ウケを狙った要素がちりばめられている。まず太っていながら美しいとされる若い女性が登場する。この女性は正規の教育を受けていないが家庭でよく教育され頭がいいことになっている。学歴は無いが知性を気取る女性への露骨なウケを狙ったと考えるのはうがちすぎだろうか。主人公は料理が得意で、ちょっと自省的で、積極的な女性が好みそうなタイプの男。図書館の女はやせているが胃拡張で大食漢。漢じゃないか。一つ一つ記号を拾うと嫌な感じだ。

作者の村上春樹は世界を意識して書いていると聞いていたのでそのあたりにも注目して読んでみると、というか注目しなくてもすぐに分かるのだが、やたら海外のミュージシャンや作家や詩人の言葉が引かれている。酒の銘柄とか車とか細かいところまで西洋風だ。とてもいい雰囲気になっているのでこの試みは成功しているとは思うのだが、正直鼻についてしょうがない。

本作は、自分の意にならないことに流される男の悲哀というか諦念というかそういうものを描いた作品なんだなと、読み終えた今はそう思う。結局謎は中途半端にしか解明されず、そこに流されていく主人公を描ききって終わってしまう。もっと劇的な展開を期待してしまった私が悪いのだろうか。どうして最後「世界の終わり」の主人公があの選択をするのか分からないし、そこに至るまでのこっちの図書館の女についてや、森に関係する設定なんかが、何も理解できなかった。

知的な男の独白や異世界の設定をじっくり味わいたい人にとっては面白い作品なのだと思うが、私は読んでいて空虚でナンセンスな想いしか抱けなかった。
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