日米中三国史 |
日本とアメリカと中国の戦後産業史を、政治・経済・軍事と幅広い視野で描き出した本。
なかでも、日本が高度成長していたときに、ちょうどアメリカと中国はベトナムを介して代理戦争をしていたことに注目している。中国つまり毛沢東は、アメリカが本土に侵攻してくることを本気で危惧し、海軍の強いアメリカから攻撃される恐れのある沿岸部への工場の集中を避け、内陸部に独立性の高い軍産複合体を点々と育成した。このときに各地に作られた町村企業が、社会主義のイデオロギーの足かせによりいつまでも効率的な工場の運用ができず、設備の割りに生産性が伸び悩み、いまでも多額の赤字を抱える国営企業として引き続いているという。
一方、アメリカの核の傘に守られた日本は、沿岸部に鉄鋼プラントを建設し、大量の鉱石を海外から買いつけて加工していた。当時の日本は最先端の技術を持っていなかったものの、世界各国から優れた機械を集め、それを統合したシステムとしてよく組み上げ、優秀な工場労働者が高い生産性でラインを運営した。このやり方は、資源を海外に頼る必要のなかったアメリカよりも効率的に鉄鋼を生産することができた。中国は、アメリカとの代理戦争を終えてからようやく、日本をまねて沿岸部に工場を作った。
作者の星野芳郎は、「マイ・カー」というベストセラーとなった本の作者らしい。この本は、当時あまり車が日本で普及していなかったころに、個人所有の車がいかに魅力的かを説き、きたるモータリゼーション社会を予言したらしい。
トヨタがアメリカに工場を進出させたときは、日本のやり方を持って行ったという。ただ、そのまま持って行ったのでは、たとえば労働者を塗装工として雇ったら、塗装以外のことをさせると契約違反になるので、製造工として雇って、塗装以外のことも会社の経費で技術を身につけさせて、ローテーションにより効率的に工場を動かしたらしい。これはひょっとしていま日本がアメリカから輸入しているキャリアアップという考え方ではないか。
アメリカでのシェアを高めていく日本車に、アメリカの大統領や業界団体が日本に乗り込んでいく事態が起きた。しかしアメリカ国内の世論は冷静で、恥ずかしい外交だとか、GM は右ハンドルの車を最近になってようやく作り始めたとメディアは報じていた。ただしその後、アメリカのメーカーは日本のやり方を取り入れながら、自分たちのやり方を改良していき、ついに日本車キラーと言われたネオンを、日本の会社並に画期的なまでに短い期間で開発した。ただし、結局ネオンは日本人の嗜好にあわずに売れなかったらしいのだが。
日本が高度成長を終えてバブルが絶頂を迎える頃まではいいのだが、その後の展開はさすがに書くのが嫌だったのだろうか、割とあっさりした書き方で短く書いて終わりにしている。ただし、二十一世紀の前半が東アジアを中心に回るであろうことの道筋をつけたのは日本であると主張する。東アジアは輸出の対米依存が高いことから、アメリカと東(東南)アジアそしてその中心である日本とこれから台頭する中国、これらの結びつきは重要であると述べている。
中国については、作者は何度も足を運んで色々なことを聞き回ったり、現地の大学で講義したりしたこともあるらしく、実例を上げて中国の発展を描いている。天安門事件関係で失脚した有力者が、実はそれは単なる名目で、硬直した人事制度を打破しようとしたのを守旧派から警戒されてのことだと説明している。現在の朱鎔基による改革までの、中国の変容についてたどっている。
アメリカについては、もっぱら軍事的な要素を中心に据えている。冷戦での宇宙開発競争、各種軍事衛星により確立させた軍事技術を、民需に転換させたこと、インターネットのもととなった軍事通信網 ARPANET からゴアの情報ハイウェイまでを述べている。その一方で、湾岸戦争がアメリカの軍事的威信による示威行為であるとほのめかし、強い軍隊によって強いドルを作り出したと言っている。
アメリカはいまの日本のような不良債権問題にも直面したことがあるのだが、日本と違ってバッサリと経営者を断罪することで短時間で乗り切っている。なにしろ銀行などの経営者千人以上を懲役にしているというから驚く。日本もただちにやってもらいたい。
確かに日本は輸出の対米依存が強いが、アメリカはアメリカで日本からの資金に依存している面もある。日本の資金がアメリカに 100 行って 105 返ってきたら、アメリカではその資金で 10 や 20 くらいは儲けているのであろうから、それも商売なのではないだろうか。これを数値化しないと、アメリカに一方的に輸出依存を突かれるだけになってしまうように思う。
この本とは関係ないが、欧米がアフリカや南アメリカにあまり目を向けようとしないことが嘆かわしい。日本はよくやった。
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