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彩雲国物語1〜3
古代中国をモデルにした世界で、国内で一二を争う力を持った一族の宗家から廃嫡され貧乏暮らしをしている一家の娘・紅秀麗が、その血筋と経歴を買われて暗愚な王の教育のために半年契約の后として宮廷に入り、陰謀に巻き込まれたりする話。

例によってアニメをちょっと見て面白かったので原作に手を出してみた。本シリーズは角川版コバルト文庫(少女向け)の角川ビーンズ文庫に収録されている。まだ原作の3巻までしか読んでいないが、思うところがいくつかあるのでこの段階で評を書くことにする。

まず言及しておくべきなのは小野不由美「十二国記」との関係だ。とてもよく似た背景を持つ作品だが、あちらが主人公たち特に少女らの成長を扱っているのに対して、こちらはどちらかというと活劇的でハーレム的で痛快だ。良く言うと娯楽性に富むが、悪く言うと読んで得るものが少ない。物語を楽しむ色合いの濃い作品と言えるだろう。

主人公の少女・紅秀麗は平凡な容姿だが笑うと魅力的で、学があって寺子屋の先生をしていて、二胡を弾いて金を稼ぐなど庶民的で男まさり、しかも実は良家の姫だが全然意識していないという、これでもかと読者少女が感情移入しやすい入れ物となっている。その快活さにより周りの美男子どもから様々な好意を受け、それでも自分は守られる側ではなく肩を並べて歩きたいと望む。我ながら意地の悪い言い方をすると、最近のキャリア志向の女性のかくありたしのようなものをお姫様幻想まで含めてビッチリ描いてみせている。もちろん男性読者のハートもバッチリ捕まえている。素晴らしい。

ただ、主要登場人物たちまで強力すぎて辟易する。若手有力官僚から将軍、王族、一族の有力者、彼らの友人と、みんな有能で頭が良い上に武にも優れ、みんな主人公に好意を寄せる。少女向けのハーレムものの作品だがこれは少年向けのそれよりも望みが高すぎじゃなかろうか。特に父親が強力すぎる設定にはガッカリした。もっと人物造形をがんばってほしい。

ストーリーはよく出来ている。本作はデビュー作らしいのだが、この人はプロット(筋書き)の組み立てがとてもうまくて驚いた。しかしそれを叙述に落とすところでまだ未熟さを感じる。明らかに文章が走りすぎて滑っているところが多かった。プロットが込み入っているのでますますそれが目立つ。三師のエピソードは悪くなかったのだが要らなかったのではないだろうか。ただでさえ大駒の飛車角が乱れ飛ぶ将棋を見せられているのに。

私はベタな英雄物語が嫌いなので、特に本シリーズのようなベッタベタのそれは生理的に受け付けないはずなのだが、それでも読んでしまうのは大きく二つの理由がある。まず、ここまでプロットに凝る作家は最近あまりいないこと。特に3巻でほのめかされる紅宗家と王家との対立の図式(しかも政争と姫奪い合いの二重)には大いに期待してしまう。それとやはりヒロイン・紅秀麗の健気で力強くも弱みのある魅力。あとおまけとして、強力な仲間たちの活躍もなんだかんだ言いながら楽しい。

ちょっと人に勧めるには今一歩なところもあるが、読み進んでいって楽しませてもらえる期待がそれなりにもてる作品である。
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