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LIAR GAME 4巻まで
馬鹿正直で人を疑うことを知らない女子大生・神崎直のもとに、LIAR GAMEという相手を騙して金を奪うゲームへの招待状と現金一億円が届く。対戦相手は高校の頃の人の良さそうな恩師だった。手ひどい裏切りにあった彼女は、たまたまニュースで報道されていた天才詐欺師・秋山深一に会いに行く。

週刊ヤングジャンプに連載されているマンガらしい。テレビドラマ化されたという帯があったので気になって読んでみたらとても面白かった。

一巻では一対一で互いの一億円を奪い合う騙し合いが描かれる。ここでは主に心理戦となり、天才詐欺師・秋山深一の講釈により、相手を精神的に揺さぶる方法などが語られて実践されていく。結末はちょっと予想がついちゃったけど。

二巻では少数決によるバトルロイヤル方式の戦いが描かれる。ここでは新たに数学的な仕掛けが用意され、ゲーム理論なんかを使ったいくつかの攻略法が示される。この筋書きを考えた人は頭が良さそうだなあ。心理学と数学に造詣がある人だと感心した。一つのゲームをめぐって展開がめまぐるしく動き、場面場面で様々な力学を見せてくれ、あっと驚く結末まで飽きさせない造りになっている。

三巻では複数回の自由投票により一番票が少なかった人間だけが敗れるゲームを扱っている。圧倒的に不利だったはずののけ者が、一気に立場を逆転する。一転窮地に陥るヒロインが、これまたあっと驚く捨て身の作戦により場を支配する。果てはこのLIAR GAMEの真理にまで手を届かせようとするヒロインの意外な考えが示され、最初から最後まで読者を引きつけて離さない。

以降四巻では再び心理戦となり、密輸ゲームという形をとったチーム対抗のダウト合戦となるが、こちらはまだ単行本では完結していない。

この作品はかつての福本伸行「カイジ―賭博黙示録」を彷彿とさせる。ルールのあるゲームに極限の状況。そんなとき人はどう行動するのか。ゲームに勝つためにはどうすればいいのか。シンプルなルールの中にあっと驚く仕掛けが用意されていて読者をうならせる。

ヒロインの神崎直が天然ものの馬鹿正直な若くてかわいい女性だというのがいい。彼女が泣いて笑って果敢に挑戦するところは応援したくなる。カイジの等身大の人間像のほうが迫ってくるものがあってリアルで良いのだが、こっちの神崎直のほうがなごめる。それに彼女はただ馬鹿正直じゃなくて、本当に人のことを思いやれる心を持っていて、殺伐としたゲームの中にあってまるで女神のようである。

特に神崎直が三巻の終わりで気づくLIAR GAMEの真実は、まるでこの世の中の仕組みを喝破したかのようで、素直に私は感動した。ゲーム理論の中で有名な囚人のジレンマを思い出す。陳腐な言い方になってしまうが、競争社会へと突き進む現代日本に一石を投じる作品だ。真のコミュニケーションとは何か。どうやったらこのすさんだ世の中を良い方向に持っていくことが出来るか。はっきりとした答えは出ないかもしれないが、この作品はきっと何か良い影響を我々に与えてくれるだろう。

一方で、やはり今の世の中は一握りの人間の手によって動かされているんだろうなあという冷たい現実にも気づかされてしまう。自分が誰かに出し抜かれているなあと思ったら、じゃあどうすれば自分が相手を出し抜けるのか、みたいに考えてみたくもなる。本当は牽制ぐらいで止めておくべきなのだろうと思いつつも。

色んな面で完成度の高いこの作品に対して何か言うことがあるとすれば、人間ドラマとしての結末がどのようにつけられるのかが多少気がかりと思わなくもない。ヒロインの神崎直はどんな状況に追い込まれても人の好さを持ち続けられるのか。天才詐欺師だった秋山深一は人の心を取り戻せるのか。そして二人はどれだけ世の人々に働きかけられるのか。

作者にはまだまだ余裕があるように見える。長い時間を掛けてじっくりと語られていく展開を期待したい。
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