Silhouette 20th Anniversary |
今の形のエレキギターを世界で初めて作ったFender社の創業者レオ・フェンダーが、会社を買収されてから自分のアイデアが採用されなくなったために新たに設立したMusic Manの、初めてのギターSilhouette(シルエット)シリーズの20周年記念モデル。
Music Manといえばまずベースが有名らしい。Stingray(スティングレイ)は、フェンダーのジャズベースやプレシジョンベースに次ぐ定番モデルとされる。ギターの知名度は一歩劣るが、一時期エドワード・ヴァン・ヘイレンが使用していたエンドースモデル(専用モデル)は現在もAXISという名で継続販売されており有名である。
うまい人が選ぶブランドで、アメリカでハンドメイドされるため最低でも二十万円以上する。昔、学園祭バンドをやったときに、ロクに練習してこない二人目のギターの人が毎回練習に来るたびに違うギターを持ってきていて、その中の一台が先のAXISだったのだが、よっぽどの金持ちだったのだろう。
外見的には独特の三角形のヘッドが特徴で、ちょっと知っている人ならすぐ分かる。
Silhouetteにはいくつかモデルがあって、単なるSilhouetteやSpecialのほか、ピックアップの組み合わせが違うものなんかもある。その中で異色なのが今回紹介する20th Anniversaryモデルである。
私がこのモデルを買うに至った経緯として、知り合いが同社のAXIS SPORTというモデルを持っていたことがそもそもの発端となった。なんでもその知り合いは、この定価24万円ぐらいのギターを、ネックの問題ありという特価品ながら七万で手に入れたのだという。それを聞いてがぜん羨ましくなったバーゲンハンターの私である。この不景気のもと、ひょっとしたら探せば格安で良いギターが手に入るかもしれない。っていうか自分ギターなんて最近全然弾いてないだろという突っ込みも自分にしてみたが、こういうのは一度欲しくなると止まらなくなる。
色々調べているうちに、どうやら私の大好きなDREAM THEATERのギターとベースがこのMusic Manを使っていることが分かった。ギターのJohn Petrucciは独自モデルを、ベースのJohn MyungはBongoというベース(正確にはErnie BallブランドなのでこれはMusic Manとは言えないか)を使っている。うーん欲しい。ますます欲しくなった。
だがJohn Petrucciモデルはそもそも定価が高いので普通に店頭で三十万円台半ばする。特価品でたまに二十万円台後半で出るが、それでもまだ高い。それに特定のギタリストのモデルというのはよほどその人のことが好きなのならともかく、せっかく自分で所有して弾くのだから普通のモデルのほうがいい。
そこで自然とSilhouetteに注目することになる。ネットの評判も上々で、とても弾きやすくて一発で買った、などいくつかすごく評価の高い書き込みを見つけた。そういうわけで店頭ではもっぱらこのSilhouetteを探して回ったのだが、やっぱり写真であらかじめ見ていたとおりどうもピックガード(知らない人に説明するのが難しいのだけど簡単に言えばギターの表面内側に見えるパネルというか)の形状がダサく思えてならない。まるで水滴のようでギターらしからぬ形に思えてならなかった。いまから思えば別に形なんてどうだっていいだろと思わなくもないが、やはり手に持って弾くからには出来るだけ愛着の持てる形がいい。
そんなわけで私の購買意欲はいったんガクンと下がるのだが、一通り都心の御茶ノ水や新宿や渋谷や秋葉原を回ったあとで、若者の街・吉祥寺のROCK INNで見たことのない形をした茶色いSilhouetteを発見した。それがこの20th Anniversaryモデルだった。定価40万円以上なのになぜか特価で18万円で売られていた。こんなモデルはネットでも見たことがなかった。そこで私は慌てて近くでネットカフェを探して速攻調べた。情報はあるにはあったが、日本国内限定60本みたいでネットの評判は限定的だった。
どうする。掛けに出るか? 決断は思ったより早かった。私の買い物の原理は、お買い得かどうかだ。フェンダーやギブソンが人気のエレキギターブランドの中、Music Manという渋い選択。その中でこの茶色くて若者ウケしなさそうな特別モデルは、店頭でいかにも人気がなさそうだった。これぞまさにお買い得なモノなのではないか。
冷静に考えれば、どんだけ弾くか分からないギターに18万もポンと出すのはおかしいんじゃないかと思わなくもなかったが、逆にこれからずっと弾くんだったらなるべく良いもののほうがいいんじゃないかという思いもあった。
試奏がてらいくつか店員さんに質問してみた。まず、なぜこのモデルが安いのか。中古ではなく店頭にずっと置かれていたものらしい。キズはあるのかと訊いたら「ない」という。だがあとになってキズを見つけたのか、シールドを挿す場所の近くに一箇所直径3mmぐらいの塗装剥げを示してきた。メーカーの倉庫にあった、つまりアウトレットだというようなこともあとから付け加えてきた。どうもこの太った店員さんの受け答えに一抹の不安を覚えたが、中古じゃなくてこの値段とこの程度のキズならお買い得なことに変わりないだろうと思って購入を決めた。一応ネックの歪みも分かる限り見てみたけど正直よく分からなかった。
家に持ち帰ってから早速トラブルが起きた。付属のやたら高級感のあるハードケースに入れて持って帰ってきたのだが、ハードケースのフタがあかないのだ。カギをもらってないんじゃないかと思って慌てて楽器屋に電話して訊いてみた。カギはかかっておらず、カギ穴の金具を横にズラせば開く仕掛けになっていた。説明が足りなくて悪かったと言われた。
後日、今度はアームがないことに気づいて今度は買い物のついでに吉祥寺の店に寄って訊いてみた。店の倉庫にはないということなので、じゃあハードケースに入っていなかったんだろうからメーカーから取り寄せてもらえることになった。しかし家に帰ってもう一度よく調べてみたら、ケースの中にパカッと開く場所があってその中に入っていた。ウケた。あとで店に謝って取り寄せをやめてもらった。早まったがやはりハードケースについては一通り最初に説明してほしいと思った。
前置きが非常に長くなったが、ギター本体についてのレビューに入る。
私は自分で言うのもなんだがそんなにギターを弾いてきたわけではない。一応ギター初心者の最初の関門と言われているDEEP PURPLEのSmoke on the Waterをソロも含めて全部弾けるので、初心者は脱していると思うのだが、中級者かと言われるとそこまで達している自信はない。だからこの高価なギターについてそんなに踏み込んだ評価は出来ないことに留意してほしい。
まず弾きやすさについて。ネックがすべすべしていてフィンガリングしやすいが、ネック自体はそんなに細くはない。IbanezやAria Pro IIなんかより太い。弦高はそんなには低くなっていなかった。弦のテンションがとても緩くてチョーキングしやすく感じた。しかしあとで気づいたのは、単に細い弦が張られていただけだった。Aria Pro IIの弦高を限界まで低くしたギターのほうが少なくともフィンガリングはしやすかった。しかし弦高を低くするとチョーキングのときに隣の弦に突っかかりやすくなる。John Petrucciモデルは本人の希望によりネックが細くなっていて、ネットでIbanezよりも全然弾きやすいと言っていた人がいたが、少なくともこのSilhouetteに関してはそこまで突き抜けた弾きやすさは感じなかった。
音については、ハムバッカーが二発ついていて、コイルタップは出来ないのだが、フロントとリアの切り替えとトーンノブの操作でかなり音に幅がつけられた。Aria Pro IIのMAC-75Sだと音がほとんど変わらなかったのでちょっと感動した。やたら倍音成分が多いのが一番の特徴で、とにかくリッチな音がする。びっくりするほどピッキングハーモニクスが出やすい。意図しなくてもちょっと指が触れるだけでハーモニクス気味になる。一方で、1弦の4フレット目を弾くと6弦が共鳴するなどやっかいな側面もある。ちゃんときっちりミュートして弾かないと音によっては音が残る現象が起きる。うまい人は気にしないだろうけど。
AXIS SPORTを持っている友人に言わせると、このSilhouetteはコード弾きのときに音を歪ませても個々の音があまり潰れないらしい。ディストーションで潰れたメタルっぽい音にするとどうしても音が潰れやすくなるのはエレキギターそのものの楽器的な特性であり、だからこそ第三音を省略したパワーコードがよく使われるので、コードを弾くときにはあまり歪ませないのが普通である。それと微妙な点だがZoomのZFX Plug-inでワウの掛かりが比較的良いらしい。ZFX Plug-inのワウの完成度が多分低いせいで友人のAXIS SPORTだとワウがどうしても弱くなるとコボしていた。AXIS SPORTも芯のある音を出す比較的高出力なギターなので何かさらに違いがあるのかもしれない。
Zoom ZFX Plug-inでデスメタルバンドCarcassのプリセットにしてみたら、ギンギンのメタルなのに艶っぽさもあるリッチな音になり、これが気持ちよくてコード弾き以外はこのプリセットばかり使っている。コード弾きにはTangerine+を使っているが、クランチな音になるはずが結構ワイルドなサウンドになる。このへんはトーンノブをいじれば普通の音も多分出せるだろう。
チョーキングするとブリッジが浮く。大した問題じゃないと思うのだがちょっとウケた。
Music Manのギターの特徴の一つに、ネックにバーズアイメイプル(鳥の目模様のメイプル材)を使っていることが挙げられるが、見た目重視で木目を構造上あまり良くない方向で使用しているためか、季節によってネックがよく曲がると言われている。体感でもチューニングがよくズレる気がする。持っているもう一本のギターがフロイドローズでロック式だから余計そう思うのかも。
この20th AnniversaryのSilhouetteは、Music Manの最高級シリーズBFRのプロトタイプの位置づけにあるらしい。良い材質の木を使ってどうたらこうたらとか。詳しくは知らない。ネットで訊いてみたらPlayer誌の2008年4月号にそのような記事があるらしい。BFRシリーズは定価がのきなみ五十万六十万とかする。どのぐらい近いのかは、比べて弾いたことがないので分からない。
若い人がこんな茶色くて渋いギターを持っても本人的にも周囲的にもいまいちだと思うので勧めないが、サラリーマンがちょっとした贅沢で弾くにはいいギターだと思う。
私はこれでハロプロの曲を弾いてニコニコ動画にアップしてみた。ヘッドが映るとMusic Manだとバレて叩かれそうだから巧みにトリミングしたのだが、このまえコメント見てみたらしっかりモデル名までバレていた。
途中まで、用語を色々マメに解説しながら書こうと思っていたのだが、ちょっと無理なので注記せずそのまま書いた。
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