渋沢家三代 |
日本に資本主義を根付かせようとした渋沢栄一とその一族を、血族という縦横のつながりを軸に描いたもの。彼は自分が始祖となって渋沢家を興すことにこだわった。
この本は新書(文春新書)なので、容量に制限があり、割と駆け足でテンポよく話が進む。渋沢栄一は江戸時代に生まれて昭和で没しており、商売っ気のある農民から、徳川最後の将軍慶喜に仕え、その敵の明治政府に仕え、野に下り、色々な会社を興していく様が次々と語られていくので面白い。
渋沢栄一の父親は、元は故郷で一番大きな一族の宗家の三男として生まれ、分家に養子で移った。栄一は分家の生まれだったので、宗家の子弟とは何かあったのではないかと著者は推測する。栄一は自分が一旗上げると、自分の子供たちをこれだと決めた人と結婚させ、自分を始祖とする渋沢一族を興した。そして一族の財産を管理し規則を定めた家法を制定した。
そんな彼の一族の中で、廃嫡となった遊び人の篤二や、いったんは栄一に頭を下げられて実業界に足を踏み入れた直系の孫の敬三を中心とした、さまざまな人々の話が、一族の残した日記やインタビューを元に語られていく。一族の話というと退屈な気がしていたが、栄一が長生きだったことから基本的に栄一が中心となって大体語られているし、三代目の敬三も日銀総裁や幣原内閣の大蔵大臣をやったほどの大物なので、一族内の内向きな話ではない。むしろ、栄一のことをえぐりだすのにもっとも良いアプローチだったと思わせる。
ただやはり、日本最初の銀行(第一国立銀行のちの第一勧銀)、ビール会社三社、日本興業銀行、清水建設、東京ガス、東京海上火災、王子製紙など、実に驚くべき数の日本の名門企業の設立への関与のいきさつなんかは、本書ではあまり記述に割かれていない。
栄一がフランスに留学していたせいか、フランス文学者の鹿島茂が雑誌「諸君!」に長い連載をしていた。これが単行本になったらこっちも最初から読んでみたいと思う。
本書は、渋沢栄一についての本を読むときの、二冊目の本としては良いのではないだろうか。
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