市長、お電話です |
アイデアものやハートウォーミングストーリーが得意な日本のSF作家・草上仁の割と後期(?)の短編集。
「国境を越えて」は、世界的な頭脳を持った博士が突然旅行に行きたくなるが、敵国に誘拐されては困ると情報機関が策を弄する話。冷戦の頃のココムみたいな輸出規制をパロっているほか、博士の助手で実は情報機関の男が情にほだされて博士を危機から救おうとするちょっと心温まる話でもある。情報機関のメンバーたちが変なコードネームで呼び合うところや、博士が宙港の職員たちと交わすとぼけたやり取りが面白かった。ただ、オチがよく分からなかった。
ポルノグラフィックはアイデア一発ものの純粋なSF作品。よくあるSF的な価値観の転換もの。はっきりいって大体途中でネタが分かってしまった。読んでいて途中で中だるみになった。だけどラストシーンがすごくまとまっていて気持ちよかった。
転送室の殺人はSFの仕掛けを使った密室殺人もの。ミステリ好きがどう思うかは知らないが、私は深く考えずに読んでそれなりに楽しめた。特に、探偵役を引き受ける休暇中の捜査官が、船の乗員乗客の話を聞くときのやりとりが洋物っぽくとぼけた味があって良かった。一応ちゃんと推理が出来るようになってると思う。
豆電球は、発展途上の惑星に滞在している研究者グループが、その惑星の物産を金儲けに利用しようとしている意地汚い御用学者を追い返そうとする話。その物産である豆がSF的に特別な物性を持っていて、それが一応キーになっているが、そこに人間カップルと異星人カップルの心温まる交流と、文化は違えど雌雄の変わらぬ価値観が描かれている。ちょっと陳腐に思ったけど、個性的な研究者の面々が知恵を絞って一種のゲームに挑んでいて少し痛快だった。
表題作「市長、お電話です」は、人の住めそうな星を探して何世代にもわたる旅を続ける移民船の中での心温まる話。冒頭、市長宛に電話が掛かってくる。ところが市長は首を傾げる。なぜ電話ぐらいで市長が驚くのか。そこから話は子供たちの話になる。船の中の限られた資源を有効に利用するため、公園で飼われていたウサギを処分することになった。子供たちはそれを止めようとする。話の内容だけ見るとテレビドラマなんかによくある話なのだけど、遠い未来の世界で進んだ技術の中にポツンと我々のよく知る電話が使われていて、それがラストシーンをとても印象付けている。ああこれが私の好きな草上仁の作風だと思った。
まあそれなりに面白い作品集だけど、ちょっとまとまりすぎてて弱いかなという感じもする。ファンには満足な一冊だけど、人に勧めるほどではないなと思った。 |
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