機動戦士Vガンダム |
いまなお特に三十代四十代の男性から根強い人気を持っているロボットアニメのガンダムシリーズのうち、初期作品と同じ時間軸の世界を背景とした最後の作品。地球連邦が疲弊し、宇宙コロニー群サイド2に興ったザンスカール帝国が地球侵攻を企てる中、民間人を中心に組織したリガ・ミリティアがガンダムと名の付く新型兵器をひそかに開発し反攻しようとする。わずか13歳の少年ウッソ・エヴィンは小競り合いに巻き込まれ、ガンダムのパイロットとして活躍するようになる。
ガンダムシリーズのアニメは初代ガンダムからZZまでは再放送も含めてテレビで見たのだけど、映画「逆襲のシャア」以降は人気が落ちていったのか縁遠くなってしまった。本作品は、新しい世代のロボットアニメとして大ヒットしたエヴァンゲリオンの少し前に放映されたが、こちらは大してヒットしなかったし何故か当時は興味も沸かなかった。ところが、ガンダムシリーズのストーリーを大雑把に追うシミュレーションゲームSDガンダムG-GENERATIONシリーズをやっていたら少し気になるようになってきたので、おおっぴらには言えない手段で入手して視聴してみた。
地球連邦が疲弊していて独自の組織が立ち上がるという構図はZガンダムにもあった。Zガンダムは特にファンが多い作品であり、ちょっと込み入っているけど単純な陣営対立ではなく、登場人物が多彩で面白かった。だから今回はそんなZガンダムと似ているようでいて独自性もあるようなので期待して見てみたのだけど、結論からいうとつまらなくて意味不明なところの多い作品だった。
今回出てくるリガ・ミリティアという組織、主に女と子供と老人を中心に構成されている。ガンダムシリーズの主人公は若い男ばかりなのだけど、この作品の主人公ウッソ少年はわずか13歳と際立って若い。しかもなんだかんだで妙に物分りがいい。でもって年上の女性に圧倒される。憧れの女性カテジナ・ルース、最初にガンダムに乗っていたマーベット、同じリガ・ミリティアの女性パイロット主体で構成されるシュラク隊、敵のエースパイロット何人か。さすがにこの主人公の少年に共感して作品を楽しむには無理があると思う。Wikipediaによると製作者側はより低年齢層向けにこの作品を作ったらしいのだが、結局その層は取り込めず、従来どおり年が上の層が見ていたらしい。
シャアにあたる敵軍のエースパイロットもぱっとしない。クロノクル・アシャーはまぬけにもウッソ少年に試作機をパラグライダーで奪われる。しかもやけに都合のいいドタバタ劇で。これまたWikipediaによると製作者側はそうすることで楽しくする意図があったらしいのだが、リアリティのあるロボットアニメというウリの本シリーズにこういう要素を取り入れるのは軽すぎると思う。ZZガンダムも結構軽かったけど。
今回のガンダムは初代と同様、上半身と下半身をドッキングするようになっているのだけど、予備のパーツが豊富なのでウッソ少年はよく分離して危機を脱出したり敵にぶつけたりする。面白いといえば面白いのだけど、そんな必要あるの?っていうときにこの分離が行われるように感じて納得しきれなさが残る。
ヒロインは結局誰なのか。ウッソ少年の幼馴染?のシャクティ・カリンはウッソにとってなんだったのか、全51話を見てもよく見えてこない。これじゃ単なる友達なのに、最後に助けるべき存在として描かれる。一方、あこがれの女性カテジナ・ルースへの想いもよく分からないままうやむやにされているように思う。さらにカテジナがいなくなったあとにウッソ少年は、最初にガンダムに乗っていたマーベットにも恋愛感情を持っているように見えるのだが、これも描写がさっぱり分からない。
女の描写が訳分からない。女だらけのシュラク隊の面々など個性は豊かなのだけど、掘り下げがいまいちな上に、年下のウッソ少年に対して説教臭くて独善的なことばかり言うし、最終的に狂ったようにエキセントリックになって自滅したりする。多分監督の富野由悠季がアクの強い個性をもっとも発揮しちゃったのがこの部分だと思う。第48か49話の最初のナレーションにある以下のメッセージにそんなアクの強さの元になった監督の女性観がよく現れていると思う。
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その中でウッソは、ファラ・グリフォンの抵抗を突破することができた。しかしそれは、マーベットが妊娠していたからだ。そのことが、この戦場を大きく支配していることを、男たちは知らなかった。
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スポンサーの指示でガンダムを第1話から出すために強引に第4話を最初に持ってきてそのあと回想でつじつまを合わせたとか、玩具メーカーの都合でバイクやタイヤつきの戦艦を作ったとか言われているが、それ以前の問題がこの作品にはある。
やけに説明的な台詞が多かった。こういう台詞を使わずに状況をうまく伝えるのが映像作品の基本だろう。口調も誰も彼も「…なの?」が多くて耳についた。
たかが大佐のタシロ・ヴァゴが、自分の部下とはいえ一体どういう権限でファラ・グリフォンを裁判もなしに一方的に断罪したのか。その後のタシロのピンチも訳が分からなかった。タシロやクロノクル・アシャーといった野心家の熱意もいまいち非現実的で伝わってこなかった。味方でほぼ唯一若い成人男性のオリファーの結末も理解不能だった。
ウッソ少年は途中で父親と再会するが、この父親との関係はこのあと大ヒットするエヴァンゲリオンと形だけは一緒でありながらいまいち深く描ききれていない。天才少年ウッソは十分に親の期待に応えていて読者の共感からは程遠い。
一方で面白い要素もいくつもあった。東欧(チェコ?)から物語が始まるところ。敵がギロチンを使って恐怖で民衆を支配しようとするところ。リガ・ミリティアのリーダーのジン・ジャハナムを名乗る指揮官を複数配して敵をまどわせようとしているところ。ニセモノのジン・ジャハナムの一人がなさけないおっさんなところ。公社が中立を守ったり、中立に見せかけて片方に肩入れしたり、スキを突かれて支配下に置かれそうになったりするところ。敵が内部分裂するところ。敵の大艦隊に対抗するために奇策を弄するところ。ちょっと強引だったけど独立した第三国につかまって収容所に入れられたり脱走をするところ。ソーラレイやコロニーレーザーのような魅力的な巨大新兵器として、今回は超音波兵器を意外な方法で使ったり、サイキッカー(超能力者?)を使った思念兵器(?)が最後を盛り上げているところ。
なにせ全51話と長いので色々細かいことを言い出すとキリがないし思い出せない。
つい惰性と作品知識のために全部見てしまったが、基本的には見る価値の低い作品だと思う。ゲームで要点が分かればそれで十分だろう。
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