生徒会の一存 |
生徒の間の人気投票で生徒会役員を決める私立碧陽学園では、美少女たちが生徒会役員を勤めていた。そこへ無類の美少女好きでエロゲマニアの杉崎鍵が、学力で選ばれる特別枠で乱入し、生徒会役員会を自らのハーレムとすべく日々調子に乗っているのだった。学園モノでハーレムモノの連作短編ライトノベル。
角川文庫の夏の百冊の中にこの本があったので買って読んでみた。富士見書房も角川ホールディングスなんだよなあ。資本関係で言えばライトノベルは角川一強になる。
主人公の杉崎鍵はエロゲマニアで、現実世界をエロゲの世界の法則に従わせようとする。エロゲとはエロいゲームの略なのだが、最近ではこの分野独特の文法に従ったものを形容する言葉ともなっている。
主人公は都合よく美少女に囲まれ、お調子者で好き勝手なことをするが誰からも嫌われずにモテる。○○フラグが立つ、とは○○という女キャラが陥ちて主人公にメロメロになることを言う。○○ルートとは、序盤は複数人いるヒロインの誰とでも親しくなれるのだが、ゲームが一定以上進むと特定の一人と特別な関係になるエンディングに行くことが決まる一本道のことを指す。このような用語を主人公の杉崎鍵はパロディとして堂々と口に出す。そもそも主人公の名前の鍵というのはエロゲメーカーの有名ブランドのKEYから来ていると思われる。
ヒロインたちの明確なキャラ付け、一話一話きっちり完結させるストーリーや語り口はまるで職人芸のようだった。完成度でいえばかなり高いと思う。エロゲをパロったメタなギャクは面白かった。ほかに「ひぐらし…」「OUT」と知らなきゃ分からないネタがあるのが難点だけど知ってる人は笑える。
ただ、キャラクターが類型的過ぎるのか、さっぱり魅力が感じられなかった。こういう日常ものって絶対にキャラクターが命だよねえ。単に私の好みに合わなかっただけのことなのだろうか。
背伸びするワガママでガキっぽい会長、あねさん気質でSな書記、ボーイッシュで活発な副会長、引っ込み思案だけどボーイズラブ(男同士の肉体的な愛まで扱ったエロ本の一分野)を時に堂々と開陳する会計。こうして短く紹介するだけだと良さげなのだけど、本当にこれ以上のことはまったくないと思う。で、表では主人公のことを毛嫌いしているけど、裏では悪からず思っているという点で共通しているという。
とってつけたような暗い設定も興ざめだった。とりあえず一巻には暗いのは要らなかったんじゃないかな。で、書くからにはちゃんと掘り下げてとことん書かないと話に入っていけないと思う。美少女たちに何か暗い背景があるということにわざわざ触れておきながら何一つ語られないのはなんなのだろう。代わりに主人公の暗い過去が語られていて、プロットは良さげなんだけど、語り口が駆け足でやっぱり入っていけなかった。
とウダウダ言ったけど、ギャグとパロディの質は高いし(ネタが分かるならという条件付きで)、娯楽作品としてなら結構楽しい作品だと思う。小説という形ではなく、最初からアニメだったらもっと良かったかも。 |
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