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文学少女と死にたがりの道化
高校の文芸部に巣食う、本を食べて味わうお下げの妖怪美少女・遠子先輩にせがまれ、甘い恋の物語に見せかけて奇妙な短編を日々書き綴る主人公の少年。二人のもとに、ラブレターの代筆を頼む夢見がちな少女が訪れる。ところが彼女の相手であるはずの「愁二先輩」はどこにもいなかった。太宰治「人間失格」に絡めたライトノベルなミステリー小説。

角川の夏の百冊にこの作品がライトノベル枠で入っていたので買って読んでみた。ファミ通文庫も角川ホールディングスか。パソコン黎明期に実質的にマイクロソフトの日本法人だったアスキーの出版部門が独立して出来たエンターブレインを角川が買収している。

たぶん日本の学生にもっとも強烈なインパクトを与え続けている太宰治「人間失格」になぞらえて物語が作られている。「恥の多い生涯を送ってきました」で始まるおなじみ(?)の引用がふんだんに使われた手記が随所に挟まれている。この独白は誰のものなのか。

主人公の少年は中学生の頃に謎の覆面作家としてデビューして一冊書いたあとで精神的に破綻してしまいそれっきりになった暗い過去がある。だから「人間失格」の引用は主人公の心情を表しているのかと最初は思う。

そんな本来なら二度と文学に関わりたくなさそうな主人公の少年をよりによって文芸部にいさせているのが、長いおさげの文学少女・遠子先輩だった。なんと本を食べる妖怪だという突飛な設定なのだけど、単にインパクトだけでなんら物語に関係しないし、少なくともこの巻ではなぜか大して突っ込まれなくて意味不明だった。子供っぽい性格をしていながら文学の和洋を問わない博識ぶりを見せ付けるのに性格は子供っぽいという萌え要素があるのだけど、私はこのキャラには大して魅力を感じなかった。中盤のお色気シーン(?)もシラケた。

この作品の鍵を握っているのは、文芸部に無邪気な依頼を持ち込む竹田千愛というあどけない少女だ。うーん。このキャラが成立していると思えるかどうかが、この作品を楽しむことが出来る大きなポイントだろう。私は正直あまり楽しめなかった。

主人公の推理によって物語は過去へと遡る。竹田千愛が想いを抱く弓道部の愁二先輩とその周辺の群像、そして主人公が囚われる過去の悲劇。でもどっちもいまいちなんだよなあ。愁二先輩関係のドラマは登場人物たちの熱いドラマがスムーズに頭に入ってこないのでずっと頭で整理しながら読まなくてはならなかった。主人公の過去のほうはイメージ先行で主人公の苛まれる描写が続くだけでほとんど具体的なことは語られない。

一言で言えばどれも中途半端。ヒロインは遠子なの?それとも何かと主人公を邪険に扱うものの露骨に好意がほのめかされる琴吹ななせなの?何も進展ないじゃん。千愛はあれで良かったの?唯一プロット的にしっかりした決着がついている愁二先輩関係の事件は語り口がいまいちだし。

と言いつつ、謎が気になって割とサクサク読んでいって、少しは楽しめた。

ただ、この程度の作品が百冊に選ばれるのは、やはり太宰治の引用効果なのだろうな。きっとこの本を楽しんだ人は、以前「人間失格」を読んだときのことを思い出しながら読んだのだと思う。そういう楽しみ方は人それぞれなので悪くはないと思う。
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