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カペー朝 フランス王朝史1
ローマ帝国が東西に分裂し、西ローマ帝国がフランク王国となってからさらに三つに分裂したあと、西フランク王国の弱い王権を引き継いで三百年掛けて絶対王政の専制国家フランスの土台を築いたカペー朝の君主たちの歩みと仕事を追った本。ルイ一世がこの王朝から生まれた。

作者は西洋史専攻の博士課程単位取得満期退学という経歴を持つ直木賞作家の佐藤賢一という人。

本書の帯にあるように、当時のフランス王というのは情けないほど弱い存在だった。名目上の家臣たちからしょっちゅう反乱を起こされていた。第四回十字軍のリーダーとして祭り上げられヴェネツィアと共にビザンチンを落としたフランドル伯なんかもフランス王の家臣ではあったが独立国のようであったらしい。ひどいときには一領主がイギリス王を相続したりして、フランス王の直轄領の数倍の領土と権力をもっていたりもした。

それをどうやって覆していったか。一番簡単なのは婚姻による相続だった。男がいない封建領主の家系は女が相続人となったため、その女と自分の子供を結婚させることで次の世代の王に領土を引き継がせた。また、有力な地方領主の家系を離間させ、伯父や末子なんかを味方につけて領土を割譲させたりした。この時代の国や領土というのは王家や貴族の私有物だったので、相続のたびに分裂したり統合されたりしたのだ。

カペー朝の王たちは領土が増えるたびに封建領主の権力を削いでいき、領土を持たない宮廷貴族や地方官僚に権力を与えていき、それらを統べる存在として王が君臨するようになった。

王権なるものの不確かさがとてもよく分かった。初代ユーグ・カペーの控えめな王権授受に始まり、自分の子供に王権を相続させるために最初は子供が成人してから共同統治という形を取った。当時の王はローマ法皇からの戴冠を受ける必要があったのでその関係も大切にする必要があった。

カペー朝の物語は唐突に終わる。王の本家の血統が途絶えてしまったからだ。分家の血筋が引き継いで割と何事もなかったかのようにその後も王家が続いていくらしいのだが、ちょうどいい区切りだということで本書は終わっている。そのあとに続くのはブルボン朝だ。

語り口が熱い。この人は本当にフランスの歴史上の人物たちが好きなんだろうなあ、というのが伝わってくる。ただ、その熱が勢い余って、時に感情まで想像して語ってしまっているのには辟易した。そりゃ確かに歴史上の人物だって一人の人間だったのだし、そのぐらいの想像をしないと歴史のダイナミズムをしっかりと掴むことは出来ないのかもしれない。でももうちょっと控えめに書いたほうが良かったと思う。

なんだかんだでそれなりに面白い本だった。読んだあとに人に面白おかしく話せるような内容はあんまりないけれど、王朝の歴代の王たちの物語に地味に引き込まれた。多少クセはありながら歴史の本という体を取りつつ、これだけ読めるものになっているのは作者が小説家だからだろうか。新書の歴史本としてなんだかんだでふさわしい内容だと思った。

ただ、歴史本としての枠は多分それほど超えていないので、歴史が好きな人になら少しだけ勧める程度だ。
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