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東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜
マルチクリエイターのリリー・フランキー(中川雅也)が、そのダメぶりを支えてくれた母親を看取るまでの自伝的小説の映画化。原作は二百万部を越えるベストセラー。

題名の「東京タワー」は、九州から呼び寄せた母親に対する東京の象徴。「時々、オトン」なのは、父親が破天荒で母子家庭のようなものだったから。

主演のオダギリジョーが、原作の自伝的小説の作者であるリリー・フランキーの若い頃を演じていて、特徴的なダメっぷりがとてもいい雰囲気ではあるのだけど、このダメさに全然魅力を感じなかった。すごくリアルだと思うし、多分見事な再現ぶりで人間洞察にも優れていると思うのだけど、私は生理的にどうしても好きになれなかった。母親からの仕送りは無駄遣いするし、サラ金から無計画に金を借り、美術大学を留年し、なんとか卒業しても最初はなまけて全然仕事をしない。そんな男が、才能があったかやる気を出して仕事が軌道に乗るのだから、創作的な分野はそういうものだとは思いつつも納得がいかない。私の妬みなのだろうけど、物語的に何か見るべきものがあると思えなかった。

なのでこの作品は題名にあるようにオカン(母親)との関係を描いた作品なのだろう。若い頃はタバコをふかし進んで道化を演じるかわいい母親。年をとると田舎の庶民的な料理屋でパートでカウンターで料理を作る母親。喉頭がんで倒れてから、主人公に東京に呼ばれ、主人公の若い友人たちに混じって料理を振る舞いおどけて慕われる母親。いったん回復はするがガンが再発して最後の時を迎えるまで伏せる母親。でも見ていてどうしても作品の中に入っていけなかった。

たとえばオカンは自分が東京にいていいのか何度も自問する。そのたびに主人公に肯定される。主人公の友達すらオカンを励まし、オカンはみんなに愛されているのだと口に出す。しかし主人公やその友人たちのオカンに対する目線が下なように思えて不快感すらある。彼らはオカンに感謝しているのだろうか。

そうイライラするのは、多分私自身あまり肉親に感謝していないからかもしれない。両親だけでなく祖父母や親戚のおじさんおばさんに対しても。どちらかというと嫌々の付き合いをしていたように思う。そんな私の思いが登場人物に投影されて、彼らがあまり感謝していないように感じるのか。画面上の彼らも明確に口に出して感謝してないので投影されやすいのだと思う。いやそうではなく、現代の肉親関係というものがそういったものになってしまったからなのではないか。親には感謝するものだという一種の押し付けに対する反発が私の中にこのようなモヤモヤを起こしているような気がして、そんな思いは私たちの世代に共通しているように思えてならなかった。

という私のひねくれた見方とは違い、原作がベストセラーとなっているということは、多くの読者はこの美しい母子愛を、子供の立場から、親の立場から、それぞれ共感したのだと思う。もしそうでないならここまで売れはしなかったんじゃないか。

時々出てくるオトンの振る舞いは、見る側に単純な解釈を許さない。この多分ありのままの微妙さが、自分のオトンもこんなとこあったな、みたいに思わせるリアルさを持っているんじゃないかと思う。

老いたオカンを演じる樹木希林の病気の演技が真に迫っていて見ていて少し鬱になった。自分の両親もいずれこうなるんだろうなあ。

少年時代のエピソードで、貨物列車にカエルを轢かせるシーンがあって笑った。ただ、ウサギも轢かせようとして途中でやめるのだけど、カエルは良くてウサギはダメという倫理観に作者が満足しているような独白には違和感を覚えた。同じ原作者による「おでんくん」という絵本・アニメを見ていても感じたことなのだけど、私はどうもこの作者の独特の世界観に違和感を感じてならない。「おでんくん」は面白かったけど。

この作品は分かりやすい物語を楽しむものではないだろうし、ダメ男のダメっぷりに苛立たせられたのだけど、部分部分に何か響いてくるところがあった。素材だけ提供するからあとは自分で感じて楽しんでね、という作品を許容できるのなら見てみていいと思う。
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