マハティールの涙 |
もう時間がたってしまったが、大の親日で知られるマレーシア首相マハティールが、涙の辞任騒動を起こしたことが新聞で報道された。新聞には、いくら優遇してもふがいないマレー人への涙だとされたが、帝京大教授の高山正之は日本人への涙だと言う。
作者は、日本の新聞はシンガポールのリー・クアンユーのほうをマハティールよりもかなり高く評価しているという。しかしそれは私の感覚からすると的外れだ。確かに新聞での細かい報道はリー・クアンユーの方に高い評価を下しているだろうが、新聞以外の「諸君!」や「正論」や「文藝春秋」なんかではマハティールへの評価の方がずっと高く、リー・クアンユーの存在感はほとんどないように思う。
マハティールの方が、日本の保守系言論人にウケているのは、第一にあの有名な「日本なかりせば」演説が大きい。それに、大東亜共栄圏とも重なる EAEC (東アジア経済共同体) を打ち出したり、アジア通貨危機のさいにジョージ・ソロスを名指しで批判したりするなど、まさにヒーローだ。
マハティールは、欧州や米州が EC や NAFTA として進めてきたことを、東アジアでは EAEC として進めようとした。本来それは日本がやるべきことであるという。アメリカが EAEC をつぶしにかかったのだが、日本の新聞はマハティールを擁護するどころか、彼をアメリカにさからう指導者だと言わんばかりに報道していたそうだ。
ほかにもマハティールは、村山首相に「日本は謝罪の必要などない」と言ったり、中国がミャンマーに経済使節団を送り込んだのに対抗して自国の経済関係者を送ったりして、巨大化する中国に対して東南アジアが日本を中心にしてまとまるよう努力しつづけてきた。なぜ日本がやらなかったのか。作者の批判は、ふがいない日本人へと向く。
マハティールの涙は日本人のふがいなさへ向けられたものだ、とはちょっと不自然でありえないように思うが、朝日新聞が「怠惰なマレー人の思考様式を変えられなかった悔し涙」と書けるのならば、なぜ新聞は誰一人として「日本人のふがいなさ」に想像が及ばなかったのかと疑問に思うのは、非常にもっともだ。
こういう時評はどんどん出るべきである。保守系雑誌だけでは国民に届かないだろう。週刊誌にこのような稿が載ったのはいいことだ。内容も 1ページにうまくまとめられており、時期こそ多少逸したのは痛いが、読者に訴えかける力は強いだろう。
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