ダブルダウン勘繰郎 |
探偵に憧れていたOLが仕事帰り、最も有名な探偵社のビルの前を通りかかると、目が離せなくなるほどの存在感を持った少年、勘繰郎が不敵な面構えでビルを見ていた。日本有数の頭脳集団である日本探偵倶楽部に入るには二つの道があった。難関である試験を突破するか、未解決の事件を解決に導くか。勘繰郎が圧倒的な自信でもって行動を開始すると、まるであつらえられたかのように事件が現れ、語り部のOLによる自省的な回想とともに二人が事件に立ち向かう。ライトノベルの旗手の一人、西尾維新による、日本探偵倶楽部を扱ったJDCトリビュートシリーズの第一弾。
この作者の戯言シリーズと世界シリーズが面白かったので、ほかの作品も読んでみたいのだけど、ちょっと高くて携行に不便な単行本しか出ていないものや、異能者が大活躍する私が嫌いなタイプの作品しか残っていないので遠ざかっていたら、ようやくこの作品が文庫本化されたので早速買って読んでみた。「トリプルプレイ助悪郎」と二作品で一冊で税別724円。
読み始めたらもう早速作者の魅力いっぱいの文章に引き込まれた。子供の頃の夢をあきらめた自分について語り始める主人公の若い女性。まあ世の中こんな女性なんてほとんどいないわけだけど、こういう寂しいことを魅力的な女性に語らせるところがいいなあ。文章の中身だけでなく語り口の切れ味が素晴らしい。そこへ自信に満ち溢れた野心的な少年が現れて刺激的な対話になる。ああ自分もこんな対話を魅力的な人相手に思う存分してみたい!
でも後半はほんとガッカリだった。急に作品世界が可能性を失って小さく縮んでいくような感じがした。敵役の振る舞いとか考え方というか論理が少々自閉的に思えたのはまだそんなに気にならなかったけど、あんなくだらない叙述トリックをする意味が分からなかった。いままでの語りはなんだったの?と唖然とした。
まあでもあんまり深く考えなければ、とにかく勢いのある話で、小説の魅力にあふれた作品だと思う。ちょうどいい長さだし。探偵という役割の本質についての鋭い視点は少し目から鱗だったしこれだけでも読み物として成り立たせられると思った。物語の結末にこだわらずに文芸作品を読める人には勧める。
毎度この人の作品を読んでいて思うのだけど、登場人物が同人的というかなんというか、今回はこういう人物を用意してこんなキャラを演じさせていますとでもいうような、狙って人物造形していることを隠そうとしていないどころか、まるで演劇のように演じさせているような感じがする。それを圧倒的なまでの技量で行っていることにこそ、この人ならではの作家性があると思う。 |
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