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おくりびと
プロのチェロ奏者として零細楽団に滑り込んだと思ったら解散になり夢破れた若き主人公は、理解ある妻の同意を得て一緒に自分の田舎に帰って新たな職を探す。ある日求人広告を見て行ってみたらそこは葬儀屋だった。金払いのいい老社長に即採用され、主人公は死者を送り出す「おくりびと」の仕事を始める。外聞が悪くて妻の反対にあい、仕事で悲惨な人生の末路を目にしながら、主人公は人の死と向かい合っていく。アメリカのアカデミー賞で外国語映画賞を受賞したことで話題となった邦画。

ここずっと邦画の調子がよく、日本国内での興行収入が洋画を逆転していて、それが単に日本の中の閉じた現象ではないことを証明したのが、アメリカのアカデミー賞の外国語映画賞やモントリオール映画祭のグランプリなど数々の映画賞を受賞した本作品なので、実のところ大して興味を惹かれなかったのだけど外せない作品だと思って気になっていたので、テレビ放映されたのを気に鑑賞してみた。

主演が本木雅弘だという時点ですでに鼻持ちならない感じがしていて、私の中の印象はマイナススタートだったのだけど、すぐに映画に引き込まれた。導入部からしてつかみが見事で、「死を扱って感動させるなんて卑怯だなあ」と思っているひねくれた視聴者の期待を良い意味で裏切ってくれて、まさかの開始10分の下ネタ(しかも死体)で笑わせてくれた。

本木雅弘がとても真面目な好青年を演じていてびっくりした。葬儀屋業界の教則DVDに出演させられるシーンでも下ネタまじりの喜劇が楽しい。本木雅弘はとてもハンサムで年を感じさせなかった。前にちらっと見た中国映画のすごいイケメン俳優を思い出した。元アイドルながら高い演技力で実績のある俳優なのに、都落ちした青年の演技が真に迫っていて驚異的だと思う。仕事でひどい遺体を見たあとで広末涼子演じる妻にすがりつくシーンがとても生々しく色気があってよかった。

部分部分を切り取ってみてもこの作品はとてもよく出来ていると思う。色々な要素がうまいこと詰め込まれていて物語に引き込まれていく。主人公が職を失うところとか、妻がそれを受け止めて我慢して田舎についていくところ、そうして耐えて耐えたから今度だけは自分の言うことを聞いてくれと訴える妻。納棺師としての一つのプロフェッショナルのありかた。山崎努が演じる葬儀屋社長の世界観。劇中の登場人物の中の一人の死。そして最後に主人公にとって重要な死があり、物語はきれいに幕を閉じる。ところどころ作り込みが甘く感じたり、正直ちょっと伏線にわざとらしさと白々しさを感じなくもなかったりしたけれど、最後のシーンがうますぎてあっさり感動の海に投げ出された。5秒前ぐらいで展開が分かっちゃったのに涙がボロボロでてきた。

チェロっていうのが卑怯だよなあ。どこまでクラシックなのかよくわからなかったけど久石譲の音楽がとてもよかった。あんな零細楽団のチェロ奏者でも1,800万も借金していい楽器買うなんて信じがたいな。

とにかく映画の良さを色んなところで感じられ、分かりやすくて面白くて泣ける映画だと思う。見終わって改めて思い返してみると、この作品には積極的に人に勧めたくなるような点は実はあんまりなかったのだけど、見たらほとんどの人が高い満足を得られる優れた作品だと思う。
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