闇金ウシジマくん 21巻+αまで |
十日で三割などのものすごい高金利で金を貸す闇金を率いる丑島社長とその一味に搾取される人々の生き様を描いたマンガ作品。
前々から2ちゃんねるでたびたび話題に挙がる作品だったこともあり、美容院の待合室に置いてあった雑誌で何話か追って読んでみてとても面白かったので最初から読んだ。
題にウシジマくんとある割に、主人公の丑島社長にあんまり焦点が当たっていない。この社長、重心の低い体躯にいがぐり頭のメガネに仏頂面で、まだ二十代前半なのにものすごく貫禄がある。こいつのサクセスストーリーというわけでは全然なく、ピンチを切り抜ける話なんかもあるけれど、とにかく主人公は不敵の一言でスキがほとんどない。
丸っこい題字や「…くん」というのは完全な遊びで、債務者のことを「奴隷くん」と陰で呼んでいたり、各話のタイトルに「サラリーマンくん」「トレンディくん」とつけていたりするように、突き放した目線をあらわしているようだった。
この作品のどこが面白いのかというと、闇金に金を借りた人々が日常的に搾取されたり、取り返しのつかないところまで転落してしまったり、なんとか踏みとどまってギリギリの生活を送れるようになったりする描写と、そのあいだにある金や腕力による暴力の発露だと思う。
消費者金融のグレーゾーン金利がどうのという問題があったけれど、闇金はそんなサラ金よりもさらに高い金利で貸し付けている。だから法律を盾に取られると本来は取り立てなんて出来ないのだけど、身内に内緒で借金している人はバレたくないし、職場に催促の電話が続くと職を失う危険があるので、なんだかんだでみんな払わざるをえない。
そんな闇金よりもやばいのが、やくざやチンピラによる貸付やゆすりだ。たとえばバックにやくざのいるホストクラブで、客が特定のホストに入れあげてツケで飲んで踏み倒すと、その借金はホストが背負わされてしまう。そのホストは借金を払えないとやくざによる暴力に曝される。闇金はそんな彼らを出し抜いて金を貸し付けて回収する。だから、闇金自体は積極的な暴力を行使しないけれど、債務者や取立人は無情な暴力の犠牲になったりする。そんなえげつない暴力描写もこの作品の魅力となっている。
この作品には人情もの的な要素はほとんどない。丑島社長は借金を負けることはほとんどないし、もし負けることがあったとしてもそれは継続的な利子の回収のためであったり、次の貸付のためであったりする。債務者のほうもほんのちょっとだけ救われることはあるけれど、全然ハッピーエンドではない。「闇金くん」編では親友だった竹本に対しても容赦がない。
悪友に騙された「サラリーマンくん」など例外もあるものの、基本的に債務者は闇金からお金を借りてしまうほどの救いようのないアホばかりなので、特に最初はパチンコ主婦が主役なこともあって最初は同情できずに転落を見て笑う娯楽作品として見ていたのだけど、やがてそれらの人々にもその人なりの理由があり、現状をなんとかしたいという思いで必死になって行動していることが分かってきて、どんな人間に対しても大なり小なり思い入れてしまっていた。
この作品を読んでいるあいだ、ずっと私は胸が苦しかった。
絵はすごく世界観に合っていてよかった。登場人物たちはいかにも下層階級という人々ばかりですごくリアルだと思う。ちょっと女の顔がワンパターンかなとも思った。たまにある背景のコンクリートジャングルだけの大ゴマが、これはおまえらの世界の話なんだぞと訴えているようでドキッとする。
日本には法律があって悪いことは出来ないようになっているけれど、そもそも法律には抜け穴があるし、法律を運用するコストや適用される条件による制限があるので、物事は最終的には暴力で解決するしかない。世の中にはユメがいっぱいあるように見えるけれど、実際はコネやしがらみでがんじがらめに縛られていて、力のある人に一方的に搾取されるだけの人々ばかりだし、力のある人だってその地位を得るために前世代の権力者にこびへつらい尽くしてきた負の連鎖がある。そんな現実世界をこの作品は実に見事にえぐりだしていると思う。
ちょっと人に勧めづらいグロくて悲惨でえげつない話なのだけど、高校生以上の人は全員読むべき素晴らしい作品だと思う。
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