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ファイナルファンタジー14
世界でもっとも売れた国産ロールプレイングゲームシリーズの最新作にして、第11作目に続いて世界中から万単位のプレイヤーが同時に接続して遊ぶことができるMMORPG(大規模多人数参加型ロールプレイングゲーム)の形態をとり、独自のファンタジー世界を舞台に冒険を楽しむコンピュータゲーム。

満を持して発売された本作だったが、発売前に行われたベータテストつまりモニター参加者だけによるテストプレイの中で悪評が伝わり、発売されたパッケージは小売店に在庫の山を作り出し、海外のゲーム雑誌から最悪の評価を受けるなど惨憺たる結果となった。私は新しいマシンをわざわざ用意までして発売を楽しみにしていたのだけど、ネット上の悪評を見てひとまず購入を保留し、その半年後に案の定500円まで値下がりしたのを見て通常版と限定版のパッケージをそれぞれ一本ずつ購入し、怖いものみたさに試しに遊んでみることにした。

一見するとよくできている。特にグラフィックスはとても美しい。導入部の演出はちょっと意味不明な感じではあったけれど悪くなかった。ゲームの中の世界に放り出され、一番弱いモンスターとの戦闘、手に入れた武器や防具を装備、経験値を稼いでキャラクターを育て、ある程度強くなったら未知のエリアへと足を踏み出す。そんなRPGならではの楽しさを味わうことができた。

しかし結局私は無料プレイ期間(一ヶ月)が終わる前にこのゲームに飽きてしまった。

そしてさらに一年半が過ぎたいま、同じジャンルのMMORPGであるドラゴンクエスト10を遊んでいるのだけど、いったい何が違っていたのか、長いこと考え続けていた結論をようやく形にしたくなったのでこうして書くことにした。

細かいことを挙げていたらキリがないので、大きな原因に絞って突き詰めてみると、システムがあまりにリニア(一次関数的)でシンメトリック(対称的)すぎたことだと思う。

どういうことか。たとえばこのゲームには採取といって、フィールド上に点在する資源を手に入れることが出来る活動がある。鉱物や植物や海産物なんかがあって、それらを材料とした生産活動をしたり、そのまま市場に流して売ることができたりする。キャラが弱いうちは行動範囲が限られている上に採取のスキルもないので、あまり大したものを手に入れることができない。

電子データだとは分かっていても、なにやら価値のあるものを手に入れたことによる喜びは大きい。この鉱物はきっと溶かして金属に加工できるのだろう、この魚はたぶん調理できるんだろう、そういったアイテムがカバンの中にたまっていくだけで楽しい。しかしあるとき気づいてしまう。そうして手に入れた初級の資源には、それぞれに上位の資源が用意されていることを。いま採取をやるよりも、まずキャラクターを強くしてから採取したほうが得なんじゃないかと。行動範囲が広がると、いま採取していた資源は大した価値がなくなってしまうんだから、いま採取したって損なんじゃないかと。こういうことはレベル制のMMORPGにすればある程度は当たり前のことなのだけど、このゲームはそれが露骨過ぎたと思う。

さらにそのうえ、そのレベルを上げるために極めてシステマティックなリーヴという仕組みが用意されていた。いくつかのパターンの中から「依頼」があって、特定の敵を倒したり生産したり目的を達成すると経験値が増えて成長できる仕組みだ。普通に敵を倒していくよりも効率よく経験値が稼げる代わりに、一日に特定の回数だけしかできない制限がある。単調になりがちなMMORPGの経験稼ぎをもっと楽しめるものにしようという意図のもとに作られたのだろう。しかしこれが逆に却ってゲームをつまらなくしたと思う。毎日同じミニゲームをやらされることになるからだ。「依頼」は参加人数を好きに選べてそれにあわせて難易度や報酬が変わるから、無理に仲間を集めなくてもこなすことができる。

レベルが一桁から十数になっても名前が変わって数値が増えるだけ。選べるいくつかの要素は不公平がないようどれを選んでも大体同じ。これって何が面白いの?ってことになってくる。

きっと製作者側はMMORPGについてよく分かっていたと思う。従来のMMORPGでよく挙がっていた不満を解決しようという意図が感じられる。だからこそ、一度参加すると参加者同士の都合から最低2時間は単純作業を続けなければならなかったレベル上げという作業を変えようとしてリーヴを導入したり、不人気のコンテンツを作らないようコンテンツを対称的にしてみたり、その上で成長の対価としてさらに価値のあるものが得られるようにしたのだと思う。ただ、実際そうしてみるとゲームがどうしようもなくつまらなくなることまでは気づかなかったようだった。せっかく多くのテストプレイヤーが参加していたにもかかわらず、その声はほとんど製作者側に届かなかったのだという。

それだけではない。MMORPGのコアはシステムであってストーリーではない、という本質も製作者側は分かっていたのだろうけれど、その結果としてストーリーがロクに出来ていないまま見切り発車してしまった。MMORPGは普通のRPGと異なり、発売時にすべてを作る必要がなく、いつでもアップデートしてコンテンツを増やしていくスタイルが当たり前になっているので、このことだけをとりあげて非難することは出来ない。しかしこうなると、ストーリーが少ない上にシステムがどうしようもないので遊ぶ意味すら見出せなくなってしまう。

このゲームが大コケしたことで、年間数十億の利益を生むはずが逆に億単位の赤字を垂れ流し、株主総会でこのゲームのことを取り上げて社長が陳謝するまでに至った。その和田社長は野村證券出身で開発に疎く、合併前のスクウェア部門が誇った国内有数の開発陣はこのゲームの開発前にリストラされ、三十台以降の中堅社員は軒並み会社を去っていたという。このゲームも実際の開発は中国に外注されていたようで、仕様的には一見問題ないかのようなのに、細かい仕組みや挙動が不便でぎこちない。翻訳もいい加減で、「ボイス」が最初「ポイス」になっていたことはネットの大きなネタになったほか、せっかくの同シリーズの資産を活かさずに人気マスコットキャラ「チョコボ」を「馬鳥」にするなど、中国での運営と中国人とのコミュニケーションのしやすさを考慮した(?)名称にしてしまう愚を犯した(結局改められた)。

ごく好意的に考えれば、良さげなものを新たに取り入れることには積極的だったのに対して、ゲームを成り立たせていた既存の要素の切捨てがあまりに軽率に行われてしまったのだと思う。そして社内的にも社外的にもフィードバックを行うための仕組みに乏しかったため、失敗を改めることができなかったのだろう。

現在このゲームは「新生」と銘打って作り直しを進めているところらしい。しかしこの失敗はそう簡単に取り戻せるものではないと思う。なにせこのゲームの開発のためにいまも継続して採用活動が行われているのである。しかも多岐にわたってコアな人材も含めて募集が続いている。しかし雇用形態がいずれも非正規だった。普通であれば開発をやめたいところだろうがそうはいかない。このシリーズが同社の看板タイトルである上に、このゲームのプレイステーション3版(未発売)のベータテスト権を封入したゲームソフトを大量に売ってしまっているからだ。かくして先の見えない開発は続いていく。

もし私がこの会社の経営にたずさわっていたとしたら、既存のヒットゲームをパクる方向での修正を指示すると思う。現に事実上の前作である同じMMORPGの11作目はエバークエストをパクって遊びやすくしたものだったし、この14作目もいくつかの面とくにグラフィックス周りでエバークエスト2に似ていると思った。全世界で数百万のプレイヤーがいたというワールドオブウォークラフトみたいなゲームをパクれば鉄板だと思う。

面白いゲームっていったいなんだろう、ということまで考えさせられたゲームだった。きっと私の分析も正しくはないだろうし、欧米的なプロジェクトマネジメントみたいな定量的な手法も根本的なところには働かないから、効率優先で切り捨てたらゲームの面白さも切り捨てられてしまったんだろうな。

にしてもいま自分はドラゴンクエスト10にハマっているところなのだけど、こっちはこっちでいったい何が楽しくて続いているのか、はかりかねるところがある。ひょっとして、ごくしょうもない要素が、ゲームを楽しめるかどうかの明暗を分けているのかもしれない。単なる数値の上下が一番プレイヤーを喜ばせていたりして。最近勢いのある携帯ゲームなんかを見てもそう思う。
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